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ソウル 北の体制 ピリッと風刺

2016年11月29日

 「作品制作で最も影響を受けたのは、金日成(キムイルソン)(主席)と金正日(キムジョンイル)(総書記)の2人からだよ」

 北朝鮮で体制を賛美するプロパガンダ画家を務め、1998年に脱北した線無(ソンム)さんは皮肉を込めて笑った。

 韓国亡命後、北の恐怖支配を批判する「政治的芸術家」として活躍。ベッドでコカ・コーラの点滴を受ける金正日氏、すき間から目がのぞく監視社会というような風刺作品を描き、世界中で紹介された。

 昨年公開されたドキュメンタリー映画「アイ アム ソンム」は、北京で企画した作品展が開幕初日、北朝鮮との関係悪化を懸念する中国当局に中止させられ、作品を没収される過程を記録した。映画の中で線無さんは顔を出していない。自身や家族、北朝鮮に残る知人らへの危害を避けるためだ。

 雅号の「線無」には南北の軍事境界線が無くなる願いを込めた。「北朝鮮にいたときは『庶民のための政治だ』と信じ込まされていたが、脱北して違うと分かった。作品を通じて、北朝鮮のひどさを世界に伝えているんだ」。ソウルでの試写会後、こう語る口調は、絵の筆致と同様に鋭かった。 (島崎諭生)