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米ラピッドシティー そんな「配達」お断り

2016年12月08日

 「30分以内で世界中に配達します」。米中西部サウスダコタ州ラピッドシティー郊外。東西冷戦終結まで使われていた核弾頭搭載の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の管制室がある地下の核シェルターの分厚い扉には、宅配ピザ会社のロゴをまねたペイントが施されていた。

 1カ所の管制室で、ICBM10発を管理し、搭載された核弾頭の爆発力は広島型原爆の約80倍。「30分以内に届かなければ、もう1つは無料」と宣伝文句まで模して発射を気軽に考えるなんて、ふざけすぎで不謹慎だと感じた。

 だが、一触即発の冷戦時代に勤務した元米軍人は「撃ちたいと思う仲間は誰もいなかった」と口をそろえる。「一発でも撃てば核戦争。でも、大統領から命令があれば、自ら世界の破滅の引き金を引くことになる」。任務に忠実であればあるほど、極限の精神状態に陥り、現実逃避して描いたものだった。

 広島、長崎への原爆投下の惨状や核戦争の恐怖の記憶が薄れたのか、核なき世界への道は険しい。北朝鮮に至っては核実験を繰り返す。誰も注文しないのに核弾頭を配達できる状況は今も続いている。 (後藤孝好)