2017年01月16日
以前から、日韓それぞれの知人に同じ場所への訪問を勧められていた。それは韓国南部の大邱(テグ)市にある寿城(スソン)池。両国の友情を象徴し、私にとってもゆかりの深い場所だった。
「景色も雰囲気も良いから、ぜひ散歩してほしい」。大邱出身の友人はそう念押しした。訪れたのは夜で、散策路にはほのかな明かりがともる。広大な池の中ほどにある島はライトアップされ、水面にその姿を映していた。
観光客も地元民も憩うこの池を造成したのは、岐阜県で町長を務め日本統治時代に大邱に移住した水崎林太郎氏(1939年没)だ。干ばつや洪水から住民を救いたいと朝鮮総督府に直談判した逸話は、在韓日本人が半年ほど前に教えてくれた。大邱に残る墓で毎年追悼式が行われている水崎氏は、記者にとって故郷の大先輩である。
この日の取材目的は、実は朴槿恵(パククネ)大統領の退陣を求める抗議デモ。現役大統領のお膝元でも国民の怒りは増すばかりだ。そんな中でようやくかなった寿城池への訪問は、連日の国政介入疑惑取材で頭から抜け落ちていた日韓の絆の歴史を思い出させてくれた。 (上野実輝彦)