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モスクワ 喜べぬ氷点下の風船

2017年03月15日

 1月上旬、モスクワはマイナス30度の強烈な寒波に襲われていた。とはいえ、腹は減るもの。昼食を買い出しに近所のファストフード店を目指した。

 ついて行きたいという7歳の長女とともに、完全防備で出掛けたが、肌が露出したほおは突き刺されたような痛みが走る。鼻の中が、パキパキ音を立てる。徒歩10分もかからない店が、とても遠く感じられた。

 到着すると、店員が娘に風船を渡してくれた。ハンバーガーの紙袋とともに帰路につく。家の近くで知り合いの日本人家族に会うと「風船、気をつけた方がいいですよ」と忠告された。屋内外の温度差が大きいため、持ち帰ると、中の空気が膨張して破裂するという。

 アパートの玄関先で空気を抜こうと試みた。だが先端は固く結ばれ、ほどけない。モタモタしていると、やっぱり破裂してしまった。大きな音が立ち、物騒なご時世なので、通報されやしないかと冷や冷やした。

 翌日、家族でカフェに行くと、また風船を渡された。ロシア人は、破裂させない方法を知っているのだろうか。笑顔の店員の好意を断れず、娘は複雑な表情だった。(栗田晃)