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ベネチア アフリカ男性の水死

2017年04月20日

 2月中旬からのカーニバルの喧騒(けんそう)を避け一足先に水の都ベネチアに遊んだ。大雪の中部イタリアとは対照的に雲一つない好天。運河沿いの席で、人々が陽光を浴びながら談笑していた。

 美術館や教会を巡り、バンショー(熱したワインに砂糖と香辛料を加えた飲料)で一休み。至福の時の余韻を胸に帰路に就く。駅前の橋の上から運河を見ると、水上バスが運河をふさぐように停止し、大勢の人が水面の一点を注視している。

 駅員に尋ねた。「運河に飛び込んだ者がいる。もう10分たったが…。水は濁っているからな」。間もなく救急艇と消防艇が到着。助かるよう願いながら予定の列車に乗った。

 翌朝の地方紙は「水上バスから4個の浮輪が投げられたが、つかまろうとせず、両手を上げ水面下に沈んだ」とあった。

 彼の名はパテ・サバリ。政変と貧困にあえぐ西アフリカの小国ガンビアから、砂漠と地中海を越えてイタリア南部シチリア島に到着。一時滞在許可を得て、縁者のいるドイツに向かって北上、ベネチアまで来て「浮輪」をつかむことなくこと切れた。享年22。 (佐藤康夫)