2017年04月25日
歌手のブルース・スプリングスティーンはオハイオ州ヤングスタウンで働いた鉄鋼労働者の哀愁を曲にした。「おやじは溶鉱炉で働き、地獄よりも熱く火を燃やし続けたんだ」-。
その曲「ヤングスタウン」のモデルとなったジョー・マーシャル・ジュニアさん(63)に会った。父の背中を追って工場で働き、1980年代の撤退とともに職を失った。
「鉄鋼通り」を車で走りながらマーシャルさんは言った。「日に700トンの鉄を生産し、米国の経済を支えていたんだ」。今ではラストベルト(さびついた工業地帯)の代名詞となった。
96年に開いたコンサートで、スプリングスティーンは切り出した。「この曲をマーシャル親子にささげる。この町で暮らし、この国をつくり、そして使い捨てられていった人々の物語だ」。マーシャルさんは最前列で聞いていた。
現在は政府が主導する再開発計画が進む。だがマーシャルさんは「この町を燃やした地獄のような熱さは、もう戻ってはこない」と漏らし、遠くを眺めた。降りしきる雨が、広大な工場跡を冷たくぬらしていた。 (北島忠輔)