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クアラルンプール 置き忘れ 不運と幸運

2017年04月30日

 マレーシアで起きた北朝鮮の金正男(キムジョンナム)氏殺害事件の取材で現地入りし、1週間が過ぎたころのこと。遺体が安置された首都クアラルンプールの病院で、関係者の出入りを待つ「張り番」をしていた際、近くのトイレで洗面台にセカンドバッグを置き忘れた。眠気覚ましに顔を洗い、ハンカチで拭きながらそのままトイレを出てしまったようだ。

 5分後に慌てて戻ったが見当たらない。面倒なことになったと病院内の警察官詰め所を訪ねたら、すぐに「これだろう」と出してくれた。一般の人が届けてくれたそうで、旅券や財布など中身も残っていた。

 マレーシアの人はなんて善良なんだろう。感動しつつ念のため財布を確認すると、現金だけきれいに抜き取られていた。その額500リンギット(約1万3000円)。カード類は無事で、警官は「仕方ないさ」と言いたげな顔で肩をすくめた。

 現地の知人は「最初に届けた人物が怪しい。警官が抜いた可能性もある」と、マレーシアの事情を踏まえて推理した。ただ犯人はともかく、現金以外が無事に戻ったのは事実。己の不覚を反省し、幸運だったと思うしかない。 (大橋洋一郎)