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ソウル 無表情の暴力 闇深く

2017年05月14日

 目の前に弁当箱が落ちてきたと思ったら、頭の上にパラパラとガラスの破片が降ってきた。

 韓国で大統領が弾劾されたその日。ソウル市内の憲法裁判所周辺で、朴槿恵(パククネ)前大統領を支持する集会に向かうため地下鉄出口の階段を上っていた時だ。別の出口では、憲法裁に抗議に向かおうとする人々と規制する警察官の小競り合いが。

 赴任して10日。韓国の人々の激しい感情の起伏を目の当たりにした。一方で、いかに大統領罷免が恥ずかしいことなのか丁寧に説明してくれたり、警察官との押し合いに巻き込まれて落とした私のスマホを拾って「大丈夫か」と気遣ってくれたり、韓国人の優しさにも触れた。

 気になったのは、小競り合いの中で一般市民の髪をわしづかみにしたまま仲間に止められても離そうとしなかった男性と、警察バスの窓を棒でひたすら割り続けていた男性が一言も発さず、ずっと無表情だったこと。いずれも3、40代。

 弾劾には、格差社会や就職難に苦しむ若者の怒りが大きな力になったといわれるが、無表情に暴力に走る姿に、韓国社会が抱える闇の深さを思った。 (境田未緒)