2017年05月29日
東京の表参道や麻布にも例えられる、ソウル随一の高級住宅街・江南地区の三成洞(サムソンドン)。そのど真ん中に、世界文化遺産に登録された史跡がある。李氏朝鮮(1392~1910年)の9代王成宗(ソンジョン)の墓「宣陵(ソッルン)」と、11代王中宗(チュンジョン)が眠る「靖陵(チョンヌン)」で、地下鉄の最寄り駅の名前にもなっている。
特に成宗は、ハングルを確立した世宗(セジョン)やその子の世祖(セジョ)と並び、政治制度や文化政策を拡充した名君の1人。元老による院政を廃し、李氏朝鮮の法体系「経国大典」を完成させたことでも知られる人物だ。
私がこの場所を知ったのは、実はつい最近。徒歩で10分ほどの距離にある朴槿恵(パククネ)前大統領の私邸を取材した時に偶然、地図で見つけて訪れてみた。
2人の王がまつられた陵墓は広々とした公園にあり、観光客だけでなく地元住民も憩う。墓を守る石像は、数百メートル先の自宅にこもる朴氏に厳しい視線を注いでいるように思える。
国政介入事件を巡って法違反に問われ、民間人の友人の傀儡(かいらい)だったとの見方まで浮上した現代の国家元首に、500年前の王は何を思うのか。聞いてみたくなった。 (上野実輝彦)