2017年06月20日
「日本人かい? 侍はカタナを使うんだろ。俺たちもケバブを切るとき長い剣を使うさ」
ハノーバーで乗ったタクシーの運転手はトルコ人。10分ほどの間に話が弾み、難しい時事ネタに踏み込んでしまった。
「今、トルコとヨーロッパの関係は厳しい状態だね」。私のひと言に彼の顔色が一瞬で変わったのが分かった。「そうではない。ただ…」
トルコの政権は抑圧的だという批判が欧州で高まり、ドイツなどで計画されたトルコ人政治家の集会を拒む自治体が続出。トルコ系移民の多いドイツ社会でも、トルコに対する風当たりが日増しに強まっている。
「アメリカやヨーロッパは、いつも価値観を押しつけてくる。俺たちには長年培ってきたやり方があるんだ。それが分かってもらえないだけだ」。彼はドイツ生まれ。移民2世でも、あるいは、だからこそ出自と欧州文明との整合に苦しみ、同じ「圏外」の私に理解を求めたのだ。
「日本人だってカタナを持って歩いてたんだろう」。西欧文明を取り込んで久しい戦後日本に育った身には、思いがけない問いを刀のように突きつけられた。 (垣見洋樹)