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米ハリスバーグ それでも静かなる川

2017年07月05日

 トランプ米大統領が就任100日を迎えた4月29日、東部ペンシルベニア州の州都ハリスバーグを訪れた。鉄鋼や石炭で栄えた町は今「ラストベルト(さびついた工業都市)」の一帯に数えられる。トランプ氏節目の演説にはうってつけの場だった。

 夜の演説までの短時間、町の西部を流れるサスケハナ川沿いを歩いた。中心街から川までほんの数分。川幅が広く緩やかな流れをたたえた水面は、まるで湖のように穏やかだ。はるか遠くの対岸には森が広がる。

 川岸に腰を下ろしていた50代の女性は「この美しい景色があるだけでいい。他に説明する言葉なんていらないわ」と言った。私も川に見入りながら「実に」とだけ答えた。これ以上、問うべきことなどない。

 約1時間の散歩を経て演説会場に入った。赤い帽子をかぶった支持者がトランプ氏の訴えに熱狂する光景は、昨年の選挙中と変わらない。60代の女性は「彼は強い指導者。100日で社会を良くしてくれた」と話した。「具体的には?」。ここは追加の質問をせざるを得ない。

 演説会場と川岸で触れた風景や声の落差に、少なからず戸惑いを覚えた。(石川智規)