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イタリア・ベナフロ 聖歌こだまし友送る

2017年08月31日

 ローマから車で南に下ること2時間、古代ローマと争ったサムニウム族の地モリーセ州べナフロの町へ出かけた。

 石畳の坂道を上りきると中世の姿をとどめるカテドラルがそびえている。200人以上の市民が席に着く中、午後5時、教会の鐘が鳴り始めた。4人の男性がひつぎを運び込むと同時に、オルガンとフルートを伴奏に男女混声の清澄な歌声。わが友人アメリーゴの葬儀が始まった。

 前日の朝8時、彼はいつものように近所のバールで朝食をとるため横断歩道を渡り始めた。そこへ同郷の80歳の看護師が運転する車が突っ込んできた。ひげ面で頑健な体躯(たいく)の友人だが、ひとたまりもなかった。

 友人らの弔辞、家族のあいさつに続き、ミサが始まるころ、堂内は立すいの余地もない。高校教師で詩人・作家・エスぺランチストの彼は郷土の文化人として皆に慕われていた。

 葬儀が終わり、弔問者が退席するなか、親族・友人の女性たちがひつぎを囲んで手をつなぎ、聖歌を歌い始めた。みな流れる涙を拭おうともしない。午後6時、せみ時雨の中、大勢の市民に見守られ霊柩車(れいきゅうしゃ)が走り始めた。享年67。 (佐藤康夫)

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