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パリ 憎しみ超えて「祖国」

2017年09月22日

 「私の祖国。大好きだから」

 1年前のニースのトラック暴走テロで母を亡くした女性の強い視線にたじろいだ。「フランスを嫌いにならないのか」。ぶしつけな問いへの答えだった。

 彼女とその家族はイスラム教徒だ。両親はモロッコ出身。父は出稼ぎでフランスにやってきた。国内を転々とした後、ニースに落ち着いて、母を呼び寄せた。そして女性が生まれた。

 今はパリ近郊に住む。故郷で起きた惨劇後、親族と訪れた現場で、心無い言葉を投げかけられる。男に絡まれ、母をテロで亡くしたと言っても「(イスラム教徒が)1人いなくなって良かった」。近くにいた女が「その通り」と追い打ちをかけた。

 ニースのテロでは、86人の犠牲者のうち3分の1がイスラム教徒だった。にもかかわらず犯人が過激思想に染まっていたという理由で、同一視され、憎悪が無関係のイスラム教徒に向かう-。そんな理不尽な現実もテロは浮き彫りにした。

 テロのたびに移民系の住民と社会との分断や差別が指摘されるフランス。それだけに「祖国」という言葉は、憎しみの連鎖を断ち切る決意にも聞こえ、心に重く響いた。 (渡辺泰之)