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上海 葵の御紋「上の指示」

2017年10月25日

 日本のパスポートには、自分の署名を手書きし、ローマ字で名前の読み方が印字してある。「署名の人物とローマ字の人物が同一であることを証明してください」と言われたら、どうしますか?

 上海市内の銀行で口座の名義変更をしようとした時、実際にあった話だ。私は署名を漢字で書いている。中国式に読めば、そのローマ字にはならない。だからこういうむちゃなことを要求されるのだろう。

 「パスポートは日本政府が発行した身分証明書だ」と言っても納得しない。「厳格な本人確認は上の指示です」と。指示どおりにやらないと後で責任を問われかねないので、無理難題と分かっていてもゴリ押ししてくる。「上の指示」は中国では葵(あおい)の紋入りの印籠なのだ。

 遺産相続で、本当に親子なのかを証明しろと要求された、自動車を買う時、未婚か既婚かの証明を出せと言われたなど、首をかしげたくなるこの手の話は中国では事欠かない。

 さて、パスポートの件。「署名とローマ字の人物は同一です」と一筆書いて、ハンコをついたらOK、解放された。じゃ最初から、そう言ってよ。 (浅井正智)