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ロンドン 誰のための記者か?

2017年11月28日

 「あなたは誰のためのジャーナリストか」

 英国に入国し、最初に問われたのは、新聞記者としての心構えを問われるような根源的な質問だった。権力による不当な弾圧、差別、事件、災害などに苦しむ人々の声を届けたい-。

 たずねてきたのは、入国管理局の係官だった。極めて無愛想な係官は、私が「ジャーナリストとして働く」と言ったのに続けて「For whom?(だれのために)」と何度も問うた。

 英国の移民は急速に増加、昨年は全雇用者に占める外国人労働者が一割を超えた。移民は英国経済を下支えしたが、英国人は「自分たちの雇用が奪われている」と懸念した。彼らが欧州連合(EU)からの離脱「ブレグジット」を選択した一因だ。

 入管での質問に一瞬たじろいたが、係官の意図を察した。「日本の読者のために記事を書く」。英国人の雇用を妨げない旨を言外に込めて説明した。

 納得したのか、しないのか。ニコリともしない係官。私のパスポートを閉じると、ポンと窓口に置いて、ひと言「グッドラック」。誰のための記者か。英国にいる間、問い続けようと思う。 (沢田千秋)