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韓国・江陵 北朝鮮劇場の幕開け

2018年04月16日

 「9時20分発ソウル行き列車が発車します。ご利用のお客さまは…」。放送が流れても乗り込む人はいない。ホームへの階段が封鎖されているからだ。

 平昌(ピョンチャン)冬季五輪会場である江陵(カンヌン)市の高速鉄道KTXの駅。この列車は韓国視察に訪れた北朝鮮の牡丹峰(モランボン)楽団団長ヒョン・ソンウォル氏らが乗るため臨時増便されたものだった。

 五輪を控えた1月、急展開で始まった南北接触は、文在寅(ムンジェイン)政権の前のめりな姿勢が目立つ。ヒョン氏らに事実上の専用KTXを提供したことも、過度な便宜供与に見える。

 江陵市でも歓迎の雰囲気が強かった。駅や視察場所には多くの一般市民らが集まって拍手で出迎え、ヒョン氏には「美しいですね」との声までかかった。報道ぶりも含め、北朝鮮の得意な劇場型の演出にうまく乗せられている形だ。

 ある有識者は五輪を通して、韓国人の北朝鮮に対する意識が測れるとみる。南北融和の雰囲気に熱狂し、警戒感と緊張感をたやすく失うのか。核開発を続けるしたたかな隣人を冷めた目で見続けるのか。私も北朝鮮劇場に惑わされることなく、注視したい。 (上野実輝彦)