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ニューヨーク ドア 全て閉ざされた

2018年04月25日

 中南米やアフリカ系の店やモスク(イスラム教礼拝所)が集まり、駅を出れば「ワンダラー(1ドル)」と物ごいが近づいてくる。ニューヨーク市北端のブロンクス地区。観光客の多い市中心部と異なり、ちょっと身構える雰囲気の所も少なくない。

 携帯電話などを扱う雑貨店を営んでいるザイド・ナギさん(36)は、就任1年を迎えたトランプ米大統領の影響で「人種差別主義や過激主義が増大している」と苦悩を明かす。

 トランプ政権が治安対策を理由に米国への新たな入国を制限した中東イエメンの出身。「国に帰れ」「おまえら全員をトランプが強制退去させる」と客から中傷されるようになった。「何か起きると、人種という『カード』を切ってくる。トランプを味方だと思っているからだ」

 家族を呼び寄せることもできない。自分が帰国すれば、米国を敵視する過激派に狙われる。「全てのドアが閉ざされたみたい」。米国で暮らす同胞の思いをザイドさんはこう代弁する。

 分断が分断を生み、憎悪が憎悪を広げる。人種の多様性を象徴するこの街の中ですら、目に見えぬ悪循環にむしばまれている。 (赤川肇)