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ニューヨーク 北の要人 一瞬の素顔

2018年05月12日

 歩道に氷が残る寒い日だった。北朝鮮の核・ミサイル開発を巡る国連安全保障理事会の会合が終わった後、国連本部から帰っていく北朝鮮の慈成男(チャソンナム)国連大使を4、5人の報道陣が追った。直接話を聞ける機会はまれ。当事国として5年ぶりに安保理に出た経緯も聞きたかった。

 国連本部の車寄せには他国の国連大使らの黒塗り高級車がズラリと並ぶが、慈氏は街を歩いて北朝鮮の国連代表部が入るビルへ。「北朝鮮に対話の意思はあるのか」との質問に「ある」と言った以外、まともに答えようとはしなかった。が、ある一瞬の出来事が印象に残った。

 テレビカメラマンが慈氏を正面から撮ろうと後ろ向きで歩いていた。その時、足もとが滑ったためか、バランスを失い転びそうになる。「オッ!」。そう声を上げて瞬時に手を差し伸べたのは、他ならぬ慈氏だった。自然な気遣いだったと思う。

 北朝鮮の国連代表部が「声明」として一方的に意見を表明することはあっても、質問にはほとんど答えない。慈氏は1万キロ以上離れた平壌から何を命じられ、何を考えているのか。いつか本音を聞ける日が来ると信じて追い続けたい。 (赤川肇)