2018年06月05日
「メ?それともミィエ?」。取材した少数民族ラカインの子どもの名前を聞くのに、ミャンマーで多数を占めるビルマ族の助手が悪戦苦闘している。
ミャンマー西端のラカイン州にあるチュイ・テー村。助手が暮らす最大都市ヤンゴンから約500キロ離れ、隣国バングラデシュの方が近い。
同じミャンマー語でも発音や抑揚が違うらしい。「『アウン・サン・スー・チー』が『オウン・サン…』になるんだ」。助手は苦笑いする。
独特な単語もある。ヤンゴンで石けんは「サッピャー」だが、ラカインは「タボン」と呼ぶ。バングラデシュのベンガル語やインドのヒンディー語の影響がみられるという。
ラカイン州にはイスラム教徒少数民族のロヒンギャも住み、バングラデシュなどからの不法移民との扱いを受けている。だが、彼らの言葉は標準的なベンガル語と大きく異なる。バングラデシュに逃れた難民の取材では通訳探しに苦労した。
ミャンマーには100以上の民族がいるとされる。深刻な対立が残り、和平は道半ばだ。言葉の違いの向こうに、複雑な事情が透けて見えた。 (北川成史)