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ロンドン 荒城の月 深いワケ?

2018年06月03日

 行きつけのパブで、中年の白人男性が「どこから来た?」と話し掛けてきた。「日本」と言うと、男性は突然「コジョノツキ!」と興奮気味に言って、歌い始めた。ちょっとした歌詞の間違いを除けば、それは確かに「荒城の月」だった。

 100年以上前の名曲。「なぜ、歌えるのか」。男性は答えない。こちらが、タイトルの意味や「小学校の教科書に載っている」と説明すると、「本当か?」と、うれしそうにメモを取る。

 日本に行ったこともなく、日本語も話せない男性が歌える理由とは。きっと、簡単には話せないドラマがあるに違いない。

 しつこく尋ねると、男性は「知りたいか?」と観念したように、私たちにビールをおごり、同じテーブルに来て、スマートフォンを手に取った。

 高まる期待感。動画が再生され、聞こえてきたのはヘビーメタルバージョンの「荒城の月」だった。「ドイツのスコーピオンズが日本のライブで歌ってたんだ」と満面の笑みで曲に聞き入る男性。

 一瞬の沈黙の後、「想像のはるか上をいってたよ」と爆笑する私たちを、男性は怪訝(けげん)そうに見つめていた。 (沢田千秋)