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チェコ・プラハ 深い深~い地下の理由

2018年07月05日

 チェコの首都プラハで地下鉄に乗るとき、動きの速いエスカレーターで相当深くまで潜らなければならない。「ナメスティ・ミル駅」は地下52メートル。エスカレーターの所要時間は2分15秒と欧州有数の長さだ。

 その理由を、旅行ガイドのチェルベンカさん(26)は、核戦争が起きた際、市民が逃げ込むシェルターという想定で設計されたためだと言った。「冷戦時代プラハは『鉄のカーテン』に最も近い都市だったのです」

 米国など西側諸国と旧ソ連中心の東側諸国を隔てた鉄のカーテン。第二次世界大戦後、両陣営が激しく対立し、核戦争は現実的な脅威だった。プラハの地下鉄は全体で30万人もの避難者を収容できるという。

 抑圧的な社会主義体制は1989年の自由化で崩壊。冷戦は終結し、核戦争の目前の脅威は去った。ただ、自由経済に変わっても地下鉄の工費は高く、工期は長い。「社会主義時代で唯一良かったことは地下鉄建設だとよく言われる」とチェルベンカさんは冗談めかして言った。

 この歴史を知った後、長いエスカレーターに乗り続ける煩わしさが、少し和らいだような気がした。 (垣見洋樹)