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シンガポール 多民族ゆえの価値観

2018年08月13日

 「トランプ米大統領は悪い男だ、許せない。金正恩朝鮮労働党委員長の方がまだましだよ」

 米朝首脳会談取材のため出張したシンガポールで、タクシーの運転手がこう語った。日本人の感覚からすると、ほぼ正反対の意見に驚いた。

 理由は単純。彼はマレー系のイスラム教徒だからだ。「イスラエルの米大使館をエルサレムに移すなんて侮辱だ。トランプはイスラム教を差別している」とまくし立てた。その一方、北朝鮮の核問題に特別大きな関心は抱いていないようだった。

 さまざまな民族が混在するシンガポール。最多の中華系が約74%を占め、マレー系が13%、インド系も9%居住する。公共交通機関で15分程度で移動可能な範囲内に中華街とインド街、イスラム街が形成され、食堂や衣類、装飾品などバラエティーに富んだ文化を楽しむこともできる。

 日本も赴任先の韓国も米朝の影響を強く受け、ほぼ単一民族の国家だけに世論も一定方向に流れやすい。そこを少し離れるだけで、世界情勢の見方はこうも異なる。歴史的な会談に立ち会いつつ、視野も広がった気がしている。 (上野実輝彦)