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タイ・チャチュンサオ 廃虚で出会ったもの

2018年08月12日

 バーンと物を打ち付けられたような衝撃が左手に走った。

 タイ中部チャチュンサオで、違法リサイクル工場の問題を取材していた昼下がり、何かに刺された。同行した運転手によると、スズメバチだという。「ハチでショック死」という見出しが頭にちらつく。まずいなあ。

 地元の病院に駆け込むと、仰々しくストレッチャーで診察室に運ばれたが、緊迫した雰囲気はそこまで。看護師が皮膚の中に針が刺さっていないのを確認して、消毒。医師は「夜になって激痛や動悸(どうき)があったら、また病院に」と落ち着いていた。

 治療費は50バーツ(約170円)。看護師には「この辺りではよくあります」と言われた。

 幸い、しばらくして痛みは引いた。思い返せば、現場は廃虚と化した、リサイクル工場の元従業員宿舎だった。

 敷地は雑草が生え放題。安い賃金で雇われたカンボジア人労働者が書いたのだろう。ほこりっぽい部屋の壁にはクメール語の卑猥(ひわい)な落書きが残っていた。

 薄暗い建物はハチの隠れ家には良さそうだが、人のすみかとしてどうだったのか。わずかに残る手の腫れよりも気にかかった。 (北川成史))

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