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ロンドン 恐怖におののいた朝

2018年10月23日

 ある朝、玄関の外が騒がしい。ドアスコープをのぞくと、黒人の若い男が床に寝転び、ひざを抱え、声を上げて泣いているではないか。一目で正気ではないと分かった。

 ロンドンではコカインなどの薬物中毒者が少なくない。急いで、マンションの管理人に電話。すでに同様の連絡を受け警察を呼んだという。

 スコープ越しに観察を続けた。男はブツブツ言いながら歩き回っていたが、ふと立ち止まると、こちらを見つめてきた。「ヤバイ」と思った瞬間、男がスコープをのぞき返してきた。恐怖にのけぞる私。その後はノックの嵐。生きた心地がしない。

 管理人に再び電話するも「危険だから近づけない」の一点張り。男はマンションのオートロック扉が開いた隙に侵入したらしい。結局、2時間たっても警察は来ず男は自ら立ち去った。

 今年、薬物とギャング絡みの殺人事件が激増したロンドン。警察は何か起きないと出動できないほど忙しいのかもしれないが、この状況の先に犯罪があるのではないか。もし、無警戒に扉を開け、あの男と鉢合わせになっていたら…。想像するだけで背筋が凍る。 (沢田千秋)