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英ドーバー 「自己責任」英国流は

2019年01月22日

 英海峡は絶景で知られる。仕事でドーバーに来たついでに、歴史的建造物や景勝地を保護する団体「ナショナル・トラスト」の自然公園を訪れた。4ポンド(約600円)を払って、車を止め、広大な草原を崖に向かう。

 すると、彼方(かなた)にパトカーが数台見えてきた。不穏な空気を感じ、近くに立っている職員に聞くと「さっき、人が落ちた」。

 職員の指示通り、現場付近を大きく迂回(うかい)し、海を望む地点にたどり着いた。真っ白な壁「ホワイト・クリフ(白い崖)」は圧巻だった。崖の高さは約100メートル。軟らかい白亜の地層は所々崩れ、一歩踏み出せば命はない。

 対岸には、うっすらと欧州大陸が。古代から先の大戦まで、英海峡で攻防を繰り広げた兵士たちも、この白い壁を目にしたのだろうと思いをはせた。

 そして、ここには景観を守るため柵は一切存在しない。後で調べたが、事故の報道や管理者責任を問う声は皆無だった。

 ロンドンにも、景観を損なうガードレールはなく、信号待ちをしていると、数10センチの距離でバスが顔をかすめる。全体の利益のため、個人は自分の身は自分で守る。これが英国の「自己責任」だ。 (沢田千秋)