双発のプロペラ機から眺める島影は、海面に姿を現したクジラの背中のように大きかった。黒々としてなだらか。島に近づくにつれ深い緑色に変わった。
北海道南部の日本海に浮かぶ周囲84キロの離島。北海道の有人5島(利尻、奥尻、礼文(れぶん)、焼尻(やぎしり)、天売(てうり))で最大の利尻に次ぐ奥尻には、約3200人が暮らす。
緑色の正体は、北限とされるブナ林。アイヌ語で神が宿る所を意味する神威山(かむいざん)(標高584メートル)を頂点にブナが島の7割以上を覆い、豊富な水を蓄える。沖合には対馬海流が流れ、北海道では比較的温暖な気候。その島で国内の離島では初めてというワインが造られていると聞き、訪ねた。
奥尻ワイナリーは、島西部の神威山のふもとにあった。オーナーは、島内で建設会社を経営する海老原孝さん(55)だ。1993年7月12日、津波や火災などで198人が犠牲になり大きな被害を出した北海道南西沖地震。島は震災直後から、復興に向けた公共工事の特需に沸き立った。土木関係や民宿業に転業する漁師らが相次いだが、激甚災害指定の5年を過ぎると仕事や客は減り始めた。
「一度陸(おか)に上がった者が、元の漁師に戻るのは簡単ではない。島復興のため雇用をつくりたかった」。ワイン好きだったこともあり、葉の摘み取りから病害虫の防除、収穫まで手間のかかるブドウ栽培ができないか、99年から土壌や気候を調べ始めた。試験的に造ったワインを都会のソムリエたちに試飲してもらった。濃度の濃い仕上がりとの評価を得、新たな挑戦に手応えを感じた。潮風を受けたブドウの味は濃く、独特の風味を醸し出すという。
海を望む丘一面に、青々としたブドウ畑がうねるように続いていた。常勤十数人と作業の繁忙期にはパート20人以上が11品種、10万本余のブドウの木を世話する。が、2004年には台風による塩害で、全体の4割が枯れる試練も味わった。
08、09年産のブドウは、6、7月の長雨で不作。「奥尻ワイン」として初出荷した昨年は、目標の5分の1の1万5000本、今年は1万3000本にとどまり、販売は島内のみ。「島の名前をブランドにしている以上、品質にこだわりどこに出しても恥ずかしくないワインにしたい」と海老原さんは意地をみせる。




















