宍道湖に沈む夕日を石川淳(1899~1987年)は「…空のかなたに、烈火を吹き上げ、炎のままに沈んで行く…ひとは立ちながらに堪(た)へなくてはならない」(「諸國畸人伝(しょこくきじんでん)」)と表現した。何という壮烈な景色だろう。その炎をこの目に焼き付けたい。願いがかなう日がやって来た。
文人に愛された点で、松江市は幸福な町だ。1890年8月から1年余を松江で暮らしたラフカディオ・ハーン(1850~1904年)も、著書「知られぬ日本の面影」に町での見聞を数多く記している。
まだ日の高い間に、ハーンのお気に入りだったという石ぎつねがある城山稲荷(じょうざんいなり)神社、夜中にはいだして近くのハス池で泳ごうとしたとの伝説を書いた月照寺の大亀の像、死んだ母親が残した赤ん坊のために幽霊となって墓から水あめを買いに出掛けた大雄寺(だいおうじ)と、ハーンゆかりの場所を歩いて回った。彼が愛(め)でてから100年の時を経て、石ぎつねも大亀もさらに妖気を蓄えているかのようだった。きれいに掃き清められた大雄寺の境内には、物の怪(け)の気配などみじんもなかったが。
代表作「耳なし芳一」の像がある千鳥南公園を経て宍道湖大橋を渡り、島根県立美術館を目指す。周辺に広がる夕日の絶好ポイントといわれる浜にはすでに先客がいた。カニのツメのオブジェと戯れるカップル、砂浜にシートを敷いておしゃべりに興じる家族。彼らが対岸の山間に沈む太陽に次第に染まっていく。決して烈(はげ)しくはなく、ずっと穏やかに。




















