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小笠原諸島

小笠原諸島 東京都 大海原のクジラに興奮

大海原で潮を吹くザトウクジラを観察する乗船客。=東京都小笠原村父島沖で

大海原で潮を吹くザトウクジラを観察する乗船客。=東京都小笠原村父島沖で

 見渡す限りの深い青色。大海原に浮かぶ小型船の上で息を潜め、周囲に目を凝らす。船長の声が飛んだ。「出た! 三時(の方角)!」。水平線手前の海面に、白い噴霧が上がった。ザトウクジラが出てきた合図だ。海面に背中やT字の尾びれをゆっくりと見せると、深く潜っていった。

 東京・竹芝桟橋から定期船「おがさわら丸」で25時間半、南へ約1000キロ離れた小笠原諸島の父島(東京都小笠原村)。沖合では12~5月、ザトウクジラが繁殖や子育てをする。シーズンを迎えたホエールウオッチングに加わった。クジラは一度潜ると十数分間は出てこない上、全長13メートルにもなる巨体をなかなか見せてくれない。それでも、10頭ほどを確認。海を自由に動き回る雄大な姿に興奮を抑えられなかった。

 船は、父島南側にそびえるハートの形をした赤色の岸壁・千尋岩(ちひろいわ)(ハートロック)や、無人の南島にあるビーチ・扇池も巡った。気温約20度、雲はほとんどない。全身に当たる海風が気持ち良い。

 
T字の尾びれを見せるクジラ=東京都小笠原村父島沖で

T字の尾びれを見せるクジラ=東京都小笠原村父島沖で

 小笠原に人が定住するようになったのは、江戸後期の1830(文政13)年。当時盛んだった捕鯨の中継拠点にと、入植した欧米人などが最初。その4代目にあたり、イーデス・ワシントンの名を持つ大平京子さん(89)を訪ねた。太平洋戦争中、急に日本名を付けさせられたり、1960(昭和35)年のチリ地震による津波で自宅が流されたりといった体験を、英単語を交えながら語ってくれた。

 戦時中、激戦になった硫黄島とともに最前線となり、島民は強制疎開させられた。戦後は米軍統治下に置かれ、68年に返還されるまで帰島を許されたのは欧米系約130人のみだった。同級生らと離れ離れになった大平さん。「日本返還を知った時は、やっと戻るんだとうれしくなって、即興で歌を作って祝った」と振り返る。

 東京都千代田区の約2倍、23.8平方キロメートルの父島と、南へ約50キロ離れた母島(20.2平方キロメートル)には、現在約2400人が住むが、大半は返還後に移住した新島民。それでも、両島には軍用車の残骸や防空壕(ごう)の穴などが点在し、島の歩みを物語る。

ハートの形をした赤色の岸壁・千尋岩(中央)。ロマンチックな景観が楽しめる

ハートの形をした赤色の岸壁・千尋岩(中央)。ロマンチックな景観が楽しめる

 小笠原はガラパゴス諸島と同じく、大陸と一度もつながったことがない海洋島だ。トレッキングツアーで父島南部の森に入ると、パイナップルのような実をつけたタコノキや、ヤシ科のオガサワラビロウなどの固有種を見かけた。見ることはできなかったが、100羽に満たないというアカガシラカラスバトや、母島だけに生息するメグロなど希少動物も生息し、独自の生態系を育む。

 そんな小笠原を、世界自然遺産に登録する動きが進む。課題は環境保護。天敵のいないなかで育った固有種は、ノヤギや野良ネコなどが繁殖するとひとたまりもない。外来種の一斉駆除やおりの設置など、国や都、村や住民らが本腰を入れている。村産業観光課の渋谷正昭課長は「独自の自然、魅力を守り続けることを、島の誇りにしていきたい」と意気込む。

 島に滞在して顔見知りになった観光客同士が「島の仲間」の気分で帰途をともにするのも、魅力の1つだ。出港日、島民ら数百人が見送りに集まった。和太鼓がたたかれ、追い掛けてくる小型船とともに、「行ってらっしゃーい」との声が届く。「また来るよ」-。小さくなってゆく島に向かって、そう叫んでいた。

 文・写真 古池康司

 (2011年2月18日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
東京・竹芝桟橋からおおむね6日に1便運航する定期船「おがさわら丸」が唯一の手段。
25時間半ほどで父島・二見港に着く。
父島から母島には「ははじま丸」で片道2時間10分かかる。

◆問い合わせ
小笠原村観光協会=電04998(2)2587。
中日旅行会が5泊6日のツアー「小笠原をゆく!」を募集中。
同会=電052(231)0800

おすすめ

枕状溶岩

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★小笠原ビジターセンター
パネル展示や映像で、島の歴史や文化、固有の動植物などを解説、紹介する。
父島・二見港から徒歩約5分。入場無料。
午前8時半~午後5時開館。電04998(2)3001

★ホエールウオッチング
1日コース(8000円~)と半日コース(4000円~)があり、
ザトウクジラのシーズンは12~5月。
マッコウクジラやイルカを見かけることもある。

★枕状溶岩
海底火山の噴火で生じたカメの甲羅のような独特の網目模様をした地質。
海岸沿いなどで見られる。
自然、地質を巡るガイドツアーや戦跡ツアーなどもある。

★小笠原産の塩
小笠原周辺の海水からとれた特産品。
ミネラル豊富で甘みがあるさわやかな口当たり。
生産者ごとに味が異なる(75グラム210円~)。

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※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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