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大久野島

大久野島 広島県 平和な島に 負の遺産

人懐っこいウサギと戯れる家族連れ。周囲には芸予諸島の多島美が広がる=広島県竹原市の大久野島で

人懐っこいウサギと戯れる家族連れ。周囲には芸予諸島の多島美が広がる=広島県竹原市の大久野島で

 穏やかな海に大小の島が浮かぶ瀬戸内海。三千余ともいわれる島群の中で歴史の荒波にもまれ、一度は地図から姿を消した小島を訪ねると、今年の主役が迎えてくれた。

 瀬戸内海の本州沿岸のほぼ中央。山陽線JR三原駅から呉線でしばらく走ると、複雑に入り組んだ海岸線が現れた。宝石をちりばめたようにキラキラ光るモザイク模様の海と、緑の島々が織りなす多島美。広島県と対岸の四国・愛媛県の間に広がる大小数百の島からなる「芸予(げいよ)諸島」だ。

 忠海(ただのうみ)駅近くの忠海港から小型連絡船に乗る。油の上を滑っているかのように進む船は、15分足らずで沖合3キロの大久野島(おおくのじま)(広島県竹原市)に。桟橋から島唯一の宿泊施設・休暇村「大久野島」の送迎バスに近づくと、茂みからアナウサギが飛び出してきた。

 周囲4.3キロの島の“住人”は、300匹余のウサギと年間を通じて温暖な気候の中でリゾート気分を満喫する長期滞在型の旅行者だ。宿泊施設前の広場では、宿泊者や日帰りの家族連れが、人懐っこいウサギの写真を撮ったり手からえさを与えたりしている。ウサギがどこから来たのか休暇村支配人の義本英也さんに尋ねると、「昭和30年代初め、本州の小学校で飼われていたウサギが増えすぎたため、島に放したのが野生化したと聞いています」。

毒ガス製造で使われた発電所跡。島中に戦争の負の遺産が残る=大久野島で

毒ガス製造で使われた発電所跡。島中に戦争の負の遺産が残る=大久野島で

 今では「ウサギ島」とも呼ばれ楽園ムードが漂うが、1900(明治33)年には日露戦争に備え、芸予要塞(ようさい)の一角として砲台が設置された。島北部の高台に登ると、石垣で築かれた堅牢(けんろう)な要塞跡が当時の様子をとどめていた。29(昭和4)年には旧日本陸軍が化学兵器工場をつくり、第2次大戦が終わるまで毒ガス島。島内の毒ガス資料館には、機密保持のため島一帯が空白にされた38年作製の地図が展示されるなど、島のいたるところで負の遺産が顔をのぞかせる。

 
京都・清水寺を模した朱塗りの普明閣。舞台からは町並みが一望できる=広島県竹原市で

京都・清水寺を模した朱塗りの普明閣。舞台からは町並みが一望できる=広島県竹原市で

 翌朝、連絡船で本州へ戻り、「安芸(広島県西部)の小京都」と称される竹原市の町並み保存地区を訪ねた。平安時代に京都・下鴨神社の荘園として栄えた町。JR竹原駅から歩いて20分余り。旧市街地を流れる本川沿いには、幕末の儒学者で勤皇思想に影響を与えた歴史書「日本外史」を著した郷土の偉人・頼山陽(らいさんよう)(1780~1832年)の銅像が鋭いまなざしで鎮座していた。

 寺山に沿って緩く曲がり、石畳が敷かれた本町通りには、300~100年前の町家が軒を連ねる。平瓦と丸瓦を組み合わせた本瓦ぶき、灰色や白色の漆喰(しっくい)壁とあめ色の格子が続く重厚なたたずまい。市まちづくり推進課の森本繁郎さんは、「製塩や酒造業でにぎわった時代をしのんでほしい」と話しながら案内してくれた。

 通りの中央から長い石段を上り詰めると、崖に足場を組んで舞台を築いた朱塗りの普明閣が凜(りん)として立っていた。西方寺の観音堂として1758(宝暦8)年、京都・清水寺の舞台を模して建てられた。舞台に立つと、東西を山に挟まれた町並みが南の瀬戸内海に向かって扇状に広がり、「山紫水明」と呼ぶにふさわしい景観が一望できた。

 山紫水明は、山陽が「竹原舟遊記」で夜の闇に包まれる少し前、山影は青紫に沈み、海面は乳白色に光る瀬戸内海の最も麗しい風景を「山紫水白。継ぐに蒼然(そうぜん)の色を以(もっ)てす」と表したのが語源。その後、瀬戸内海の眺望をたたえる「対仙酔楼記(たいせんすいろうき)」に「山紫水明処にて」と書き加えたという。

 京都で塾を開き、鴨川のほとりに構えた書斎を「山紫水明処」と名付けた山陽。竹原から遠く離れた京にあっても、故郷の山海を前に紡いだ4文字を手放さなかった。

 文・奥田啓二 写真・池田まみ

 (2011年3月4日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
大久野島へは、山陽新幹線三原駅で下車し、呉線三原-忠海約20分。
忠海港から客船かフェリーで大久野島港まで約15分、港から休暇村の無料送迎バスで5分。
しまなみ海道(広島県尾道市-愛媛県今治市)からだと、大三島(今治市)・盛港からフェリーで約15分。
忠海駅から竹原駅まで約15分。

◆問い合わせ
竹原市観光協会=電0846(22)4331、休暇村「大久野島」=電0846(26)0321

おすすめ

たけはら焼

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★瀬戸内マリンビュー
呉線広島-三原駅間93.4キロを2両編成で走る。
レトロなクルージングキャビンをイメージした丸窓と、広めの1枚ガラスを取り入れたデザインが人気。
問い合わせはJR西日本広島支社営業課=電082(264)7420(平日の午前9~午後5時半)

★たけはら焼
酒どころ竹原市内のお好み焼き6店が、お好み焼きの生地に地元産純米吟醸の酒かすを加え、ご当地グルメとして創作。
本町通り沿いで230年前の醤油(しょうゆ)蔵を店舗にする「ほり川」=電0846(22)2475=では、基本シングルが950円。水曜定休日。

★毒ガス資料館
化学兵器工場で使われた毒ガス製造装置やゴム製防毒マスクなどを展示。
年末年始以外は午前9~午後4時まで開館。
入館料は19歳以上100円、18歳以下50円。
電0846(26)3036

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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