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サンクトペテルブルク

サンクトペテルブルク ロシア 輝く宮殿に光太夫しのぶ

大黒屋光太夫がエカテリーナ2世に拝えつしたエカテリーナ宮殿の大広間。独ソ戦で破壊されたが、復元された

大黒屋光太夫がエカテリーナ2世に拝えつしたエカテリーナ宮殿の大広間。独ソ戦で破壊されたが、復元された

 「ロシア人の平均寿命を知ってますか?」。日本留学経験のあるガイドのグレープさんが、観光バスの日本人乗客に問いかけた。「男性は58歳、女性は73歳です。年金支給は、女性が55歳なのに対して、男性は60歳。これって、男女差別じゃない!」

 ブラックユーモアを交えてロシア事情を教えてくれるグレープさん。バスはサンクトペテルブルク市の中心部から、郊外の高速道路をひた走る。どこまでいっても平たんな大地が広がる。

 目指すのは「ツァールスコエ・セロ(皇帝の村)」。ロシア皇帝が夏の4カ月間、避暑のために過ごした離宮である。

 離宮のエカテリーナ宮殿へ向かう途中、落葉樹の疎林の中に、ベンチに腰掛け詩想をめぐらす青年像があった。サンクトペテルブルク旅行中、いたるところで出合うことになる文豪プーシキン像だった。血気盛んな詩人は、妻に言い寄る男と決闘、致命傷を負い37歳で散った。「彼はアフリカ系ロシア人ですね」とグレープさん。よく見ると、容姿はなるほどアフリカ系。

 
専用サーカス劇場で大観衆を前に披露される曲芸

専用サーカス劇場で大観衆を前に披露される曲芸

 日本にとってロシアは北の隣国。江戸時代、難破して漂着した者が少なからずいた。伊勢・白子の浦(三重県鈴鹿市)から船出した船頭、大黒屋光太夫もその1人だ。苦節9年、女帝エカテリーナ2世にえっけんし、ようやく帰国の願いが聞き届けられた物語は、井上靖の小説「おろしや国酔夢譚(こくすいむたん)」に詳しい。記者は鈴鹿で暮らしたこともあって、光太夫ゆかりのこの宮殿をいつか訪れたいと思っていた。

 階段を上ると、恐ろしく長い廊下が左右にあった。全長740メートルに及ぶ宮殿の部屋部屋を貫く1本の通路である。1つの部屋を入り、出ては次の部屋へ。赤大理石の間、青大理石の間、肖像画で埋め尽くされた間、琥珀(こはく)の間…。宮殿の主が代わるたびにその趣味がインテリアに反映され、ぜいたくな美を尽くす。

 女帝が玉座に座っていただろう大広間に近づくに従って、胸が高鳴ってきた。踏み入ると、壮麗な大広間に2段窓から光が降り注いでいた。天井画と寄せ木の床絵。おびただしい鏡に映る光が交錯する。透明感ある威容に打たれつつ、女帝の御前に進む光太夫の姿を想像していた。

青空に映える「血の上の教会」。ロシア伝統の建築様式が美しい=いずれもロシア・サンクトペテルブルク市で

青空に映える「血の上の教会」。ロシア伝統の建築様式が美しい=いずれもロシア・サンクトペテルブルク市で

 滞在中、日本総領事の川端一郎さんに会った。「この街に、日本語学校ができたのは1705年のこと。ピョートル大帝が漂流民伝兵衛を教師にし、きたるべき日本との交渉に備えたのが、日本研究の最初です」と教えてくれた。

 明治以後、数多くの日本の軽業師たちがロシアに渡った。その子孫が旧ソ連から来日した「ボリショイサーカス」で曲芸をしていたことを思い出した。見に行ったボリショイ・サンクトペテルブルク・サーカスは1887年創設の老舗。すり鉢状の劇場を埋める家族連れ。手に汗握る驚異の軽業、動物芸の数々。そして軽妙な道化師たち。

 興奮冷めやらぬまま、世界遺産の中心街をぶらぶら歩いた。皇帝アレクサンドル2世が暗殺された現場に建てられたねぎ坊主のクーポラが印象的な「血の上の教会」など、歴史的な建築が抜けるような青空に浮かび上がっていた。

 プーシキンが決闘前に立ち寄った「文学カフェ」にも足を延ばしたかったが、時間切れ。次回の楽しみにとっておこう。

 文・写真 長谷義隆

 (2011年4月1日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
成田からサンクトペテルブルクへ夏、秋は直行便があるが、それ以外はヘルシンキ経由の空路で。
東京や名古屋などから各種パックツアーが出ている。
エカテリーナ宮殿はサンクトペテルブルク中心部から南に25キロ、バスで約30分。

おすすめ

マリインスキー劇場内部

マリインスキー劇場内部

★エルミタージュ美術館
世界屈指の美の殿堂。女帝エカテリーナ2世が自ら収集した絵画コレクションを1764年に宮殿内ギャラリーに展示したことに端を発し、300万点にのぼる所蔵品があり、質量とも世界最大級。
展示場をすべて見て歩くと総延長25キロに。建築、室内装飾も美の結晶。

★マリインスキー劇場
バレエ、オペラとも世界最高峰のカンパニーを有す。
現在の建物は1860年建築、皇帝アレクサンドル2世の妻の名にちなむ。
現代的な味付けのラトマンスキー演出・振り付けのバレエ「シンデレラ」を鑑賞したが、最高席で約1万4000円だった。

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