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讃岐・こんぴらさん

讃岐・こんぴらさん 香川県 海の守護神 東北へ祈り

金刀比羅宮境内を目指し、石段を登る参拝者。背後に広がる讃岐平野の絶景が疲れを癒やしてくれる

金刀比羅宮境内を目指し、石段を
登る参拝者。背後に広がる讃岐平
野の絶景が疲れを癒やしてくれる

 ♪こんぴら船々 追風(おいて)に帆かけてシュラシュシュシュ 詣(まわ)れば四国は讃州那珂(さんしゅうなか)の郡(ごおり) 象頭山(ぞうずさん)金毘羅(こんぴら)大権現 一度廻(まわ)れば(正調・こんぴら船々の元唄)

 懐かしい軽快なメロディー。子どものころ、信心深かった祖母が口ずさむ民謡の心地よさが、今も耳に残る。そんな記憶をたぐりながら、海の守護神として「こんぴらさん」と親しまれる庶民信仰の聖地、讃岐の金刀比羅宮(ことひらぐう)(香川県琴平町)を目指した。

 列車で濃霧と雨に煙る瀬戸大橋を渡ると、香川県中部の玄関口、坂出、丸亀両市境で讃岐富士と呼ばれる優美な飯野山(標高421メートル)に出迎えられた。丸亀から20分余り列車に揺られると琴平駅。駅の目の前には、江戸時代中期から、お伊勢参りと並び庶民の巡礼が盛んになった同宮が鎮座(ちんざ)する象頭山(同521メートル)が横たわっていた。山容が象の頭に似ているといわれ、新緑に萌(も)える山腹に目を凝らすと、光る一点が。「象の目のように光って見えるのは、参道のほぼ中央にあたる旭社(あさひのやしろ)の銅板ぶき屋根」と、ガイドの橘正範さんが教えてくれた。

 
春恒例の歌舞伎が千秋楽を迎えた旧金毘羅大芝居

春恒例の歌舞伎が千秋楽を迎えた旧金毘羅大芝居

 門前町として栄えた表参道ののぼり旗に導かれ脇道に入ると、重厚な建物の前に人があふれていた。1835(天保6)年に建てられた、現存する芝居小屋としては日本最古の旧金毘羅大芝居(愛称・金丸座)。この日は、途絶えていたこんぴら歌舞伎を1985(昭和60)年に復活させて以来、毎春上演されている歌舞伎公演の千秋楽だった。

 表参道の鳥居をくぐると、一ノ坂が石の壁のように立ちはだかった。本宮まで785段。先の見えない石段に尻込みしていると、見ず知らずの団体から「まだ序の口。がんばろうや」の励まし。途中、80軒ほどの土産物店が並ぶ参道中ほどの写真館に立ち寄った。

 60年以上、参拝客の記念写真を撮り続けている矢尾勇さん(85)は「東日本大震災の影響で、いつもよりお参りが3~4割ほど少ない」と言いながら、10年以上も毎年、お参りのたびに顔を見せている青森県八戸市の常連客が気掛かりとも。震災直後、安否が心配で手紙を出し、最近になって無事との返事が届いたが、それでも「顔を見るまでは安心できない」と気遣った。

参拝客を乗せ急な石段を下りる、こんぴら名物「石段かご」=いずれも香川県琴平町で

参拝客を乗せ急な石段を下りる、こんぴら名物「石段かご」=いずれも香川県琴平町で

 年配女性を乗せたこんぴら名物「石段かご」と擦れ違いながら、ようやく365段目。ここから上が境内という大門(おおもん)前に立ち参道を振り返ると、讃岐平野ののどかな眺望に癒やされた。

 緩やかな石畳を通り抜けると、江戸時代中期を代表する絵師の円山応挙や伊藤若冲のふすま絵などを収めた書院。どこから見てもにらまれているような虎を描いた応挙の傑作に圧倒された余韻に浸りながら、ジグザグに石段を登ると、1837年創建の総欅(けやき)二重入り母屋造りの旭社が現れた。神仏習合による権現時代の金堂にあたる建物。上層の屋根裏には巻き雲、柱や扉には人物、鳥獣、草花の華麗な彫刻が施され、侠客(きょうかく)・清水次郎長の代参として訪れた森の石松が本宮と勘違いしたとの逸話が残る。

 急勾配の133段を進むと、本宮が荘厳なたたずまいをみせた。展望台から13キロほど先の讃岐富士が望め、瀬戸内海を航行する船から同宮を遥拝(ようはい)する目標灯が備わる。参道最頂部の奥社までだと全1368段だが、今回は神前で願いがかなわなかった祖母の代参と下山を報告した。

 「震災以来、毎朝のおつとめで荒ぶる海の静まりを祈り続けています」と、海でつながった三陸沿岸など東北地方の復興を願う同宮教学顧問の西牟田崇生さん。厳しい自然に恐れと祈りを込めながら、明日への希望をつなぐ人々の輪が、“象”の山を包み込んでいる。

 文・写真 奥田啓二

 (2011年5月13日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
金刀比羅宮には、JR岡山駅から特急で琴平駅まで約50分、駅前から徒歩約15分で表参道。高松自動車道は善通寺ICで降りると便利。
羽田空港-高松空港の直行便(約1時間15分)は1日12往復。
フェリーは宇野港-高松港間(宇高国道フェリー・約1時間)が1日22往復、神戸・新港第3突堤-高松東港フェリーふ頭間(ジャンボフェリー・約4時間)が1日4往復運航。

◆問い合わせ
琴平町観光会館=電0877(75)3500、香川県観光振興課=電087(832)3360

おすすめ

うどんタクシー

うどんタクシー

★うどん会館
僧侶の智泉(ちせん)が叔父の空海からうどんの製法を伝授され、故郷・香川県綾川町滝宮の両親に振る舞い広まったことから讃岐うどん発祥の地と伝わる。
国道32号沿いの道の駅「滝宮」に併設のうどん会館では淡黄色、もちもち感、風味豊かな地元産小麦「さぬき夢2000」を使った打ちたてうどんが味わえる。第1、3火曜日休館。
問い合わせは同会館=電087(876)5018=へ。
電車は高松琴平電鉄琴平線の琴電琴平駅から滝宮駅まで約20分、徒歩約10分。

★うどんタクシー
予約制。丼に入ったうどんの行灯(あんどん)を屋根に載せたタクシーで、琴平町内外のうどん店食べ歩きを案内。問い合わせはコトバスタクシー=電0877(73)2221

★旧金毘羅大芝居
1970年に国重文に指定され、72年から4年かけて現在地に移転復元。歌舞伎の公演以外は建物内を年中無休で一般公開(午前9時~午後5時)。
入場料は大人500円、中・高校生300円、小人200円。
問い合わせは管理事務所=電0877(73)3846

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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