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冷戦博物館

冷戦博物館 モスクワ 核シェルター眠る地下へ

住宅街の一角にある博物館の入り口は目立たない

住宅街の一角にある博物館の入り口は目立たない

 ソ連が崩壊し、東西冷戦が終結したのは1991年。20年が過ぎ、街には色鮮やかな広告や高級自動車があふれ、風景は様変わりした。そんな華やかさを増したロシア・モスクワ中心部の地中深くに、核戦争の恐怖が現実味を帯びていた時代の遺物が静かに眠っている。有事の際の通信基地として55年前に造られた巨大な核シェルターが、今では「冷戦博物館」の名で一般公開されている。

 博物館は、行政の中心・クレムリンや赤の広場から直線距離でわずか2キロの場所にある。ものものしい軍事施設のような建物を想像しながら現地に着くと、住宅街の一角にある入り口に拍子抜けした。看板もなく、門に掲げられた赤い星がなければ見逃してしまっただろう。恐る恐るインターホンを押し、中へ入った。

 第二次大戦後すぐに計画は始まり、施設が完成したのは56年。近隣住民には地下鉄の延伸工事と偽り、人知れず建設は進められたという。約2500人が交代制で勤務し、常時600人が詰めていたが、冷戦終結とともにお役御免。2006年に民間企業に買い取られ、博物館として生まれ変わった。

 
分厚いコンクリートや鉄骨がむき出しになり、核シェルターの名残をとどめる「冷戦博物館」

分厚いコンクリートや鉄骨がむき出しになり、核シェルターの名残をとどめる「冷戦博物館」

 低いモーター音とともに開閉する厚さ50センチほどの分厚い扉を目の前にして、この施設が造られた意味を肌で感じることができた。核攻撃の衝撃波から内部を守るためだ。人がやっとすれ違えるほどの階段を、延々と下り続けた。ようやく壁に「-(マイナス)18階」の表記が現れ、60メートル下の地下世界に到着した。

 むき出しの鉄骨とコンクリートで補強された総面積約7000平方メートルの大小のトンネル。がらんどうの空間は、中断したままの工事現場のようでもある。居住施設となる直径8メートルの筒状の空間は上下に分割され、2階建てのような構造をしている。

 核シェルターとして水や食料、燃料の備蓄だけでなく、発電設備や外気を浄化する空調設備も備え、数カ月間地下で生活することができた。緊張した面持ちの職員たちが行き交っていた往時を想像すると、赤茶色の壁から重苦しい圧迫感が伝わってきた。

 突然、頭上から振動音が響き、外国人ツアー客が足を止めた。「すぐ近くを通る地下鉄です」と、ガイドのポリーナさんは笑いながら教えてくれた。モスクワの地下鉄は、それ自体が防空壕(ごう)として造られており、さらに深い場所にいることになる。

4本のトンネルからなる地下施設の模型=いずれもロシア・モスクワで

4本のトンネルからなる地下施設の模型=いずれもロシア・モスクワで

 当時の様子が再現された通信室には、古めかしいテレックスのような通信機器や黒電話、交換機が並んでいた。核戦争下で遠隔地へ指令を送るなど重要な役割を担ってきた。地下施設の心臓部ともいえるこの部屋の存在は、限られた職員しか知らなかったという。

 頭部をすっぽりと覆うゴム製のガスマスクや軍服を着ての記念撮影、見学中に突然照明を消してサイレンを鳴り響かせるなど、ツアー客を楽しませる演出も。博物館はイベント会場として貸し出しもしている。

 約1時間半の見学ツアーを終え、帰路はエレベーターで一気に地上へ。米ソ両陣営が真剣に核戦争を想定していた時代へと、つかの間のタイムスリップをしていた気分。春の陽光がまぶしい21世紀のモスクワの風景にほっとし、深呼吸した。

 文・写真 内山田正夫

 (2011年5月20日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
成田-モスクワ間の直行便は、アエロフロートが毎日、日本航空が週3便運航。
所要時間約10時間半。冷戦博物館へは地下鉄のタガンスカヤ駅から徒歩約10分。
地下鉄の運賃は距離に関係なく一律28ルーブル(約85円)。

◆問い合わせ
冷戦博物館=国際電話+7(495)5000554=の見学には事前予約が必要。
外国人向けに英語ガイドのツアーがあり、料金は1300ルーブル(約3900円)。

おすすめ

聖ワシリー寺院

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★赤の広場
大勢の観光客で終日にぎわう石畳の広場。
周囲にはカラフルなタマネギ形の屋根で知られる聖ワシリー寺院、城壁に囲まれ大統領府や博物館などがあるクレムリン、レーニン廟(びょう)、国立歴史博物館などがある。

★ノボデビチ修道院
約500年の歴史を誇る城壁に囲まれた女子修道院。
併設される墓地には、エリツィン元大統領や作家のチェーホフらロシアの著名人の墓が並ぶ。

★雀(すずめ)が丘
市内を一望できる小高い丘。モスクワに侵攻したナポレオンが市街を見下ろし感慨にふけったという。背後には、スターリン様式として知られるモスクワ大学の建物がそびえ立つ。

★ベルニサージュ
土産品や骨董(こっとう)品などが並ぶ市場。特に旧ソ連時代の国旗や制服、バッジなどが多い。周囲はロシアの教会風建物などに囲まれ、テーマパークのような趣。
入場料10ルーブル(約30円)。

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