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武雄市

武雄市 佐賀県 楼門くぐって武士気分

武雄温泉のランドマークの楼門。国の重要文化財に指定されている

武雄温泉のランドマークの楼門。国の重要文化財に指定されている

 伊達政宗、宮本武蔵、シーボルト、吉田松陰に伊能忠敬。戦国、江戸時代を彩った偉人たちが訪れたという武雄温泉。湯につかり、日ごろの緊張が解けた時、彼らはどんな表情を浮かべたのだろう…。

 戦国武将や幕末の志士の気分に浸ってみようと、東京駅の設計で有名な辰野金吾博士が手掛けた立派な楼門をくぐってびっくり。元湯、蓬莱湯、鷺(さぎ)乃湯、家老湯、殿様湯…と浴場だらけ。迷った末、殿様湯を奮発することにした。江戸中期に造られた領主鍋島氏の専用風呂。浴槽が大理石でできている。1時間貸し切りで3800円。わざわざ係の女性が「控えの間」まで案内してくれる。

 特別に殿様に許されてこの風呂に入ったシーボルトは「水晶のように美しい」と絶賛したという。透き通った湯を堪能しようと、勇んで浴槽へ向かったが、お湯の温度が尋常じゃない。インターホンを見つけ、先の女性に「熱すぎて入れません」と告げると、ほとばしっていた湯口の湯が止まった。

 しかし、20分待っても、30分待っても、湯はなかなか冷めてくれない。「あつ、あつ、あつ…」と呪文のように唱えながら湯につかったが、我慢できたのは30秒ほど。

 
根回り33メートルの「川古の大楠」は樹齢3000年

根回り33メートルの「川古の大楠」は樹齢3000年

 昔の人が我慢強かったのか、それとも自分が軟弱なのか、湯冷ましがてら温泉街を歩く。かつては長崎街道の塚崎宿として栄えた通りは、歴史のモザイクだ。シーボルトに医学を習い、帰藩して日本最初の種痘を成功させた中村涼庵の旧宅のすぐ近くに、「源為朝が退治した大蛇のうろこをこの道で運んだ」という平安時代の伝説が書かれた石碑がある。

 こうした時間の堆積、人びとの営みを見届けてきたのが、樹齢3000年の「川古(かわご)の大楠(おおくす)」。高さ25メートル、根回り33メートルは、全国5番目の大きさという。「うつほ物語」ではないが、木の空洞にいくつも物語が宿っていそうだ。

 実際、その1つが1日3回(午前10時、正午、午後3時)、大楠のそばの地産品販売所で人形劇として上演されている。琵琶法師の姿を借りた木の精霊が語るのは「鎮西八郎為朝の大蛇退治」。黒髪山で大暴れしている大蛇を退治するため、為朝は万寿姫を人身御供とし、姫を襲おうと現れた大蛇を見事に射抜く。「がばい(すごく)強かねえ」。見物席から声が上がった。

「為朝の大蛇退治」を紹介するからくり人形=いずれも佐賀県武雄市で

「為朝の大蛇退治」を紹介するからくり人形=いずれも佐賀県武雄市で

 黒髪山へも足を延ばしたがどしゃ降りで、巨岩、奇岩が居並ぶ威容を拝むことができなかった。島原の乱の後、ふもとの村へやってきた隠れキリシタン新三郎と村の娘お君が悲恋の果て、山の「雄岩」「雌岩」となったという伝説を暗い空に思い巡らすのみ。

 翌日は、元湯(400円)に入ってみることにした。1876(明治9)年築の浴場は湯治場の雰囲気が残る。湯船は「ぬる湯」「あつ湯」の2つに分かれていて、「あつ湯」は「44~45.5度」と書かれている。もう一度、武士の気分を味わうと決意して「あつ湯」を目指す。

 「がばい熱(あつ)かよ」。先客が顔をしかめつつ、少し自慢げに語りかけてきた。「やっぱり自分には無理か」と思ったが、あら不思議。前日で体が慣れたのか、それとも仲間がいるからか、つかっていられる。「ほんと、熱かですね」。声にも余裕が出た。

 文・写真 中山敬三

 (2011年7月8日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
福岡空港からJR博多駅は地下鉄で6分。JR博多駅から武雄温泉駅は特急で70分。

◆問い合わせ
武雄市観光課=電0954(23)9237、武雄市観光協会0954(23)7766

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飛龍窯

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★武雄焼
400年の歴史があり、大皿、水指、茶わん、壺(つぼ)など多彩。17世紀は東南アジアに輸出された。現在も市内に90の窯元があり、武雄焼発祥の地区には一度に茶わん12万個を焼成できる世界最大の容量を誇る登り窯「飛龍窯」がある。

★長崎街道
江戸時代、幕府管理の下、外国との貿易を行っていた長崎と小倉の間を25の宿場で結び、鎖国状態の日本で例外的に異国文化が色濃く薫った。長崎に荷揚げされた砂糖を使ったカステラなどの南蛮菓子を商う店が街道沿いに並んだことから「シュガーロード」の異名も。

★黒髪山
巨岩、奇岩が立ち並び、カネコシダなど珍しい植物が群生する景観から、為朝の大蛇退治伝説のほか弘法大師が修行を積んだとの言い伝えも。ふもとには内風呂と足湯を備えた「黒髪の森温泉 天童の湯」があり、ハイキングの疲れを癒やす。

★「佐賀のがばいばあちゃん」ロケ地
泉ピン子が主演したテレビドラマのメーンロケ地として、酒造会社跡や保育所など市内各所で撮影が行われた。淀姫神社には川から流れてくる野菜を拾うシーンなどを撮影した、ばあちゃんの家の裏側のオープンセットが残されている。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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