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平泉

平泉 岩手県 “黄金文化”復興の光に

池を中心に浄土を表した毛越寺の庭園=岩手県平泉町で

池を中心に浄土を表した毛越寺の庭園=岩手県平泉町で

 夢は実を結んだ。6月末、東北地方で初の世界文化遺産に登録された、みちのく岩手県の「平泉」。平安時代末期、栄華を極めた奥州藤原氏は戦乱の焦土から立ち上がり、仏教で煩悩とけがれのない世界「浄土」の再現を目指した。人と人との絆を大切にしながら、争いのない自然との共生を願った理想郷「仏国土」を切り開いた姿は、東日本大震災からの復興に向かう象徴として、東北の未来を照らす希望の光になった。

 「内陸部の平泉は、地震による大きな被害がなかった」という地元ガイド関宮治良さんの案内で、北上川沿いを走る東北線の平泉駅から西へ延びる県道を600メートルほど行くと、2代基衡と3代秀衡が池を中心に造営した毛越寺(もうつうじ)が見えてきた。15ヘクタールの境内のうち、6ヘクタールを占める大泉が池の縁に立ち浄土庭園を見渡した。藤原時代の建物は焼失したが、朱塗りの大伽藍(がらん)を思い浮かべ、池で水遊びに興じる貴族たちのみやびな姿を想像する。

 基衡の妻が浄土庭園として造った観自在王院跡、秀衡が宇治平等院の鳳凰(ほうおう)堂を模した無量光院跡を巡り、少年期に過ごした平泉に逃れた源義経が非業の死を遂げたという北上川右岸の高台「高館(たかだち)」に登った。高台の一角には、藤原氏滅亡から500年後の1689(元禄2)年に高館を訪れた松尾芭蕉が、奥の細道で義経の最期に涙して詠んだ「夏草や兵どもが夢の跡」の句碑が立ち、観光客が代わる代わる記念写真に納まっていた。

猛暑の中、世界の宝になった中尊寺金色堂を参拝する観光客=岩手県平泉町で

猛暑の中、世界の宝になった中尊寺金色堂を参拝する観光客=岩手県平泉町で

 毛越寺の北には、町づくりの中心となった金鶏山。さらに車で北へ数分。初代清衡が1124(天治元)年に建立した国宝の金色堂で知られる中尊寺に向かう。気温35度近くの厳しい暑さにもかかわらず、参道は参拝者であふれていた。タイムトンネルのような杉の巨木が立ち並ぶ参道を上り詰めると、堂を保護するコンクリート製の覆堂(さやどう)=1968(昭和43)年築=に守られ、阿弥陀(あみだ)如来を本尊とする金色堂が建立当時の姿をとどめていた。ガラスケースの中の堂は一辺が5.5メートル。想像していたより小さく見える。

 内外に金箔(きんぱく)と螺鈿(らでん)を惜しみなく使い、泉鏡花が「星の流るるごとく」と絶賛したまばゆく輝く内陣。建立から164年後、鎌倉幕府が旧覆堂(経蔵近くに移築)を建てるまで、堂は風雨にさらされながら木立の中でさんぜんと光り輝き続けた。「仏教で光は、災いを寄せ付けないと信じられていた」と関宮さん。光にとことんこだわった清衡の思い入れが胸に染みる。

 参道に戻り脇道にそれると、青紫や白色のミヤコワスレが涼やかに咲いていた。地元では「フジワラギク」と呼ぶお年寄りもいて、独自の“黄金文化”を花開かせた藤原氏3代の存在感を今に伝えている。

 
木づちで板をたたき、空飛ぶ団子を注文する観光客=岩手県一関市で

木づちで板をたたき、空飛ぶ団子を注文する観光客=岩手県一関市で

 平泉から車で西へ30分ほど入った山あいの名勝、厳美渓(げんびけい)(同県一関市)に寄った。狭くなった川の両岸にごつごつした岩肌が重なり合う奇景が約2キロ続く。右岸の休憩所では、震災地などを取材中という香港のマスコミ関係者が、渓谷の上に張ったロープにつり下げた竹籠で茶屋から団子が届く「空飛ぶ団子」に歓声を上げていた。茶屋4代目の千葉晴夫さん(64)は「平泉のおかげで、昨年並みの人出が戻ってきた」と明るい。

 渓谷では、2週間の予定で来日し、津波被害の大きかった同県宮古市でボランティア活動をする米国・シアトルの船会社に勤める日系のデーブ・渡慶次さん(62)と出会った。気分転換に週末を利用して観光しているといい、「平泉で素晴らしい文化遺産と歴史に触れることができた。帰国したら友人や同僚に魅力を伝えたい」と右手の親指を立てた。

 時を超え、戦乱を乗り越え、そして今、震災を乗り越えた金色堂。建立から900年にわたって郷土の宝を守り継いできた人たちの心意気もまた、輝きを増すに違いない。

 文・写真 奥田啓二

 (2011年7月29日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
東北新幹線で東京駅から一ノ関駅まで約2時間40分、JR東北線一ノ関駅から平泉駅まで8分。
愛知県営名古屋空港からいわて花巻空港まで1時間10分で木、土、日曜日のみ1日1往復。
8月以降は1日1往復に拡大予定。北陸からは小松空港からの仙台便が便利。

◆問い合わせ
岩手県観光協会=電019(651)0626、平泉文化遺産センター=電0191(46)2118

おすすめ

小物入れ

小物入れ

★空飛ぶ団子
厳美渓のがけっぷちに立つ1878(明治11)年創業の茶屋「郭公(かっこう)屋」から対岸の休息所まで張った長さ約100メートルのロープにつるした移動式竹籠に代金を入れ、備え付けの木づちで板をたたき合図すると、籠に団子を入れ届けてくれる。
1人前(3色団子とお茶)400円。12~2月の休業を除く毎日午前9時~午後5時ごろまで営業。電0191(29)2031

★玉小箱
平泉町の秀衡塗漆器店「翁知屋」(おおちや)=電0191(46)2306=で販売。
鳴子こけしのふたと漆器の栃ぐいのみ(直径5センチ、高さ9センチ)を組み合わせた小物入れ。
伊達政宗かぶと、力士など9種類(7875~1万5750円)。HPは こちら

★もち膳
一関市の酒造会社「世嬉の一」が経営する「蔵元レストラン世嬉の一」=電0191(21)1144=などで、祝い事などに欠かせない岩手県南部地方独特のもち料理が味わえる。
あんこ、ずんだ、黒ごま、小エビをまぶした一口大のもちと、季節野菜の小鍋をセットにした御膳(1575円)など。年中無休。

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