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嬬恋村

嬬恋村 群馬県 白い山霧、黒い岩肌

霧で浅間山観音(後方)がかすむ中、荒々しい岩肌をみせる鬼押出し園を巡る観光客

霧で浅間山観音(後方)がかすむ中、荒々しい岩肌をみせる鬼押出し園を巡る観光客

 標高2000メートルを超える山並みを仰ぐ群馬県西端の嬬恋(つまごい)村。東日本大震災以降、全国から熱い視線が向けられている。「ズングリとした丸坊主の山が浮かんでいる」と、小説家で登山家の深田久弥が山岳随筆「日本百名山」で表した、長野県境にそびえる浅間山(2,568メートル)の麓に広がる高地。誇れるものは、出荷量が全国一の夏秋キャベツや日本一高い所にある天空の温泉・万座温泉(1,800メートル)だけではなかった。

 急峻(きゅうしゅん)な山肌にへばりつくように築かれたJR吾妻(あがつま)線の万座・鹿沢口駅から、V字形に切れ込んだ谷底をのぞき込むと、村の中央を流れる吾妻川が細くなって見えた。川は、前夜からの雨で茶色く濁っている。

 真っ青な広い空を期待していたが、周りを見渡すと緑深き山々は、雲海の中に隠れ白一色。めいった気分で国道144号沿いの土産物店をのぞいた。1971(昭和46)年の同線開通と同時に開業した店主の入沢美江子さん(70)は、大切にしまってあった開通当時の上野駅までの記念切符を店の奥から出してきて見せながら、「おいしい空気をいっぱい吸っていって」と笑顔で励ましてくれた。

 村の南北を約60キロにわたって貫くハイウエーのほぼ中間にある同駅から、車で南の軽井沢方面へ約25分。1783(天明3)年8月5日の昼ごろ、浅間山が「堪忍袋の緒を切って大暴れ」(日本百名山)した際、火口から押し出された溶岩が固まってできた「鬼押出し園」が現れた。

 広さ約6.8平方キロメートルの園内は、ゴジラの風貌に似た奇岩や高さ4、5メートルもある荒々しい岩肌をさらけ出す黒い巨岩で埋め尽くされている。展望台からは、濃い霧のせいで園の中央で噴火の犠牲者の霊を供養する「浅間山観音」がかすかに拝めるだけ。間近にそびえる「モクモクとキャベツのような煙を噴いていた浅間」(同)の姿を待ったが、片思いに終わった。

 来たハイウエーを戻り、天明の大噴火「浅間焼け」の“土石なだれ”で壊滅した旧鎌原村に寄った。火口から北へ約12キロの村落が厚さ6メートル余りの土石にのみ込まれ、村人570人のうち477人が亡くなり、小高い尾根の中腹に立つ「鎌原(かんばら)観音堂」に逃げた93人が助かった。

浅間焼けで村人の生死を分けた鎌原観音堂の石段=いずれも群馬県嬬恋村で

浅間焼けで村人の生死を分けた鎌原観音堂の石段=いずれも群馬県嬬恋村で

 道路沿いのくぼ地から、かやぶき屋根の小さなお堂を見上げた。村人の生死を分けた石段が15段続き、どれもすり減って角が取れている。神奈川県から来たという年配夫婦は、「(お堂は)厄よけの守り神様として長い間、たくさんの人がお参りしているからね」と、手をつないだ小学生の孫と歴史の重みを踏み締めながら石段を上っていった。

 32年前、お堂周辺の発掘調査で15段の下にさらに35段が続き、最初の1段目で年配の女性を背負った中年女性が見つかった。当時、調査に携わった嬬恋郷土資料館名誉館長の松島栄治さん(81)は、「弱い者を必死で助けようとする姿に感銘を受け、命の尊さを思い知らされた」と振り返る。

 「お茶でもいかがですか」。帰り際、お堂脇のお籠(こ)もり堂から声をかけられた。地元の奉仕会が輪番制で年中休みなく、参拝を終えた人たちをもてなしているという。「先祖を供養してもらったお礼と、周囲の人たちに助けられて復興できたことへの感謝を忘れないために」と奉仕会会長の宮崎伊三郎さん(86)らが、お茶と朝に収穫したキャベツやキュウリの漬物などを薦めてくれた。

 228年前の大噴火後、「一つの家族」という誓約書をとり、悲劇から立ち上がった高原の村。残された人たちの団結力と不屈の精神力が、大勢の人を引きつけている。

文・写真 奥田啓二

 (2011年9月30日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
JR上野駅から万座・鹿沢口駅まで、上越、吾妻線の特急で約2時間40分。
東京駅からは長野新幹線で軽井沢駅まで約1時間、さらにバスで万座・鹿沢口駅まで約1時間。
車は上信越自動車道の上田菅平、碓氷軽井沢、東部湯の丸の各IC、関越自動車道の渋川・伊香保ICが便利。

◆問い合わせ
嬬恋村観光商工課=電0279(96)1515、同村観光協会=電0279(97)3721

おすすめ

甘露煮

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★万座温泉湯めぐり手形
宿泊客は1枚1200円で購入した手形で、好みの温泉3カ所に入れる。4カ所目からは1回500円。日帰り客は1枚700円で購入したうえ、1温泉の入浴料500円が必要。問い合わせは、万座温泉観光協会=電0279(97)4000。

★花まめ
正式名称はベニバナインゲンで、嬬恋村では「花豆」「花インゲン」「おいらん豆」と呼ぶ。ソラマメの1.5倍ほどの大粒で赤紫色。10月中旬が収穫期。甘露煮や甘納豆などが村内の土産物店や旅館などで買える。JA嬬恋村でも味付き煮豆を加工、販売。瓶詰めの煮豆(520グラム入り800円)は通年販売。問い合わせは、同JA販売課=電0279(80)6104。

★嬬恋郷土資料館
1階は浅間焼けによる土石なだれで埋没した旧鎌原村の発掘品などを展示。2階は村特産キャベツの歴史や料理法などを解説。3階はパノラマ展望室。午前9時~午後4時半、入館料は大人300円、小中学生150円。休みは水曜日と年末年始。電0279(97)3405

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