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足利市

足利市 栃木県 将軍の氏寺 流転の秘宝

天明鋳物の大鰐口が掛かる鑁阿寺。「足利の大日さま」として住民に親しまれている

天明鋳物の大鰐口が掛かる鑁阿寺。「足利の大日さま」として住民に親しまれている

 栃木県足利市の中心部、足利将軍家の先祖が12世紀に建てた居館跡にたつ鑁阿(ばんな)寺。1辺200メートルほどの方形の館跡には堀と土手が今も残り、文化財の宝庫とされる。鎌倉初期に建てられた本堂(国重要文化財)をはじめ、国の史跡である境内に多くの堂塔が立ち並ぶ。

 体長1メートル前後もあるコイが悠然と泳ぐ堀の前で、山門へと続く屋根付きの太鼓橋にみとれている時だった。自転車の少年が橋を走りおりてきた。優美な曲線を描く屋根を持つ総ケヤキ造りの板橋である。紛れもなく文化財。あっけにとられた。少年は走り去った。しばらくすると、別の少年が自転車で橋を渡り、境内を走り抜けていった。

 なんだか、普通のお寺ではない。市民が三々五々散策している。市教育委員会の大沢伸啓さん(52)に尋ねると「境内地は足利市が市中央部の公園として管理していますから、24時間開放。自転車の乗り入れも禁止していません」。境内は掃き清められ、いたずら書きも見あたらない。そのおおらかさ。そしてマナーのよさ。

 寺の創建は、足利氏の礎を築いた2代目義兼が館の一角に持仏堂を建てたのが始まりと伝えられる。以後、足利氏の氏寺で関東を護持する祈願寺として繁栄した。

 お寺紹介の小冊子をめくっていたら、寺宝の青磁浮牡丹(ぼたん)香炉・花瓶に目がとまった。南宋から元時代の中国青磁の最高峰。足利尊氏の奉納という由緒に思いをはせていると「グオーン」。本堂の軒先につるされた大鰐口(わにぐち)が荘重に鳴り響いた。

 直径1.5メートルはあろうかという特大。「昭和33年・・・鋳物師 野州佐野 若林勇吉」と銘が刻まれている。本堂の雨受け盤、多宝塔前の香炉など天明鋳物の大器があちこちに。訪ねようと思っていた隣町の佐野市は、1000年の歴史を持つ天明鋳物の産地。その名品に幸先よく出合えるとは。うれしくなった。

 
復元された足利学校

復元された足利学校

 観光名所の足利学校はお寺のすぐそばにある。石畳に続く奥に、孔子像を安置している儒教式の廟(びょう)があった。創建は諸説あるが、16世紀中ごろにはフランシスコ・ザビエルによって「日本国中最も大にして最も有名な坂東の大学」と西洋にも紹介。ここで儒学、易学、医学などを学んで巣立った学徒は延べ3000人といい、大沢さんは「戦国大名のブレーンとして活躍した軍師らを輩出している」と教えてくれた。

 「足利氏の子孫が経営している料理旅館がある」と紹介され、郊外の巌華(がんか)園へ。文人墨客が愛した宿で、風呂には小説家坂口安吾が詠んだ「花の下には風ばかり」の銘板がかかる。自慢の庭園、巌華園は南画の山水図さながらの、珍しい文人趣味の庭。旅情とともに丹精のこもった夕食を味わっていると、主の中島太郎さん(48)が顔を出し、歴史談議に花が咲いた。

 
文人墨客が遊んだ巌華園の庭園

文人墨客が遊んだ巌華園の庭園=いずれも栃木県足利市で

 鑁阿寺奥の院にあたる樺崎寺(廃寺)から流出した秘宝は流転。2008年3月の新聞各紙に「運慶の仏像に12億円超、海外流出回避」の大見出しが躍った。「市民が足元の歴史遺産に気づくきっかけになった」と中島さん。

 翌日、発掘調査が進む樺崎寺跡にたつ樺崎八幡宮に出かけた。廃仏棄釈(きしゃく)の嵐は八幡宮本殿を残して仏閣をすべて破壊した。運慶作の仏像はその残照。足利の歴史の奥深さを思った。

 文・写真 長谷義隆

 (2011年11月18日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
東武伊勢崎線浅草駅から特急で75分。
東京・上野駅から東北新幹線・JR小山駅で両毛線に乗り換え、小山から約40分。
足利市は中心部に観光名所が集中しており、足利市観光協会貸し出しのレンタサイクルが便利。

◆問い合わせ
足利市観光協会=電0284(43)3000、
足利市観光交流課=電0284(20)2165

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★栗田美術館
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★足利織物伝承館
昭和前期、隆盛を極めた絹織物「足利本銘仙」の着物などを展示。皇太子時代の大正天皇や昭和天皇が行啓した旧織物会館の貴賓室も再現。足利織物会館内2階にある。無料。電0284(22)3004

★天明鋳物
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