【本文】

  1. トップ
  2. 旅だより
  3. 呉市
呉市

呉市 広島県 音戸の瀬戸

平清盛が瀬戸内航路開発のため開削したと伝わる音戸の瀬戸。今も多くの船が往来する=広島県呉市で

平清盛が瀬戸内航路開発のため開削したと伝わる音戸の瀬戸。今も多くの船が往来する=広島県呉市で

 平家物語では悪人扱いのおごれるカリスマ、平清盛(1118~81年)。広島県呉市では全然違う。みんなが口をそろえて「清盛さんはヒーローです!」。民謡「音戸(おんど)の舟唄」に歌われた船頭泣かせの急流海峡、音戸の瀬戸の近くで、創業100年の酒蔵を守る榎真理子さんもその1人。「うちは平家の落人。身内びいきです」

 創業当初から「清盛」銘柄の地酒を造ってきた。「関東では清盛の名がうとまれ、代表銘柄を『華鳩(はなはと)』に改名しましたが、清盛さんが今年のNHK大河ドラマの主人公になって、晴れて世に受けいれられそう」と喜ぶ。

 1000トン級の船や小船が1日約700隻行き交う幅わずか90メートルの「瀬戸銀座」は平安の昔、干潮時に陸続きになる浅瀬だった。これを清盛が切り開いて瀬戸内航路を40キロ短縮、中国・南宋との日宋交易で巨万の富を得たとされる。その権勢を示す銅像が、海峡を一望する山上にあった。「平清盛日招像」である。

 難工事の完成間際、清盛が沈まんとする太陽に向かい金の扇をかざし、日輪を差し招き「返せ、戻せ」と叫ぶと、不思議なことに日が再び昇ってきたという。斜面を下っていくと、清盛が立ったという「日招きの岩」があった。岩には足跡とつえの跡まであり、カリスマ伝説てんこ盛りである。

山上から海上交通の安全を見守る平清盛の「日招像」=広島県呉市で

山上から海上交通の安全を見守る平清盛の「日招像」=広島県呉市で

 音戸渡船は日本一短い定期航路。「おーい」。対岸の船頭さんに手を振ると、渡船が急流を越えてやってきた。時刻表はない。桟橋に人影があると来てくれる。大人片道70円。わずか3分の船旅だが、大型船がつくる波で、狭い海峡全体が揺れるよう。なかなかスリリングだ。

 渡船場に近い「戸田本店」は鯛(たい)料理の老舗。急流が流入するいけすで身を締めた天然マダイの刺し身、骨蒸し、たい飯・・・。行き交う船を見ながら、味わう海の幸は格別である。レトロな雰囲気の音戸の路地歩きも一興。毛利元就の子孫が住職をつとめる毛利家ゆかりの法専寺など、手あかがついていない観光スポットがあちこちにある。

 
清盛の妻、時子を弔うため建立された宮島の二位殿灯籠=広島県廿日市市で

清盛の妻、時子を弔うため建立された宮島の二位殿灯籠=広島県廿日市市で

 清盛は平家一門の氏神であった厳島神社への信仰あつく、本拠地の兵庫(神戸市)から頻繁に参詣した。政権トップに上り詰めると、平安文化の粋を集めて宮島に海上神殿を造営した。

 宮島名物の朱の大鳥居を望む岸辺に、大きな石灯籠が目についた。清盛の妻、時子こと二位殿を弔うために建てられたもの。平家が滅んだ壇ノ浦の戦い(山口県下関市)後、亡きがらが流れ着いたという。「波の底にも都の候(さぶらふ)ぞ」。8歳の安徳帝を抱いて海に飛び込んだ時子の悲嘆が聞こえてくるようである。

 壮麗な厳島神社の見学を終え、境内裏手を回って宮島港に向かう道すがら、不思議なたたずまいの社に吸い寄せられた。三翁(さんのう)神社である。明治維新後、島内にあった末社を合祀(ごうし)。立て札によると、祭神には安徳帝、二位尼の名もあり、かつては清盛も一緒にまつられていた“神々の集合住宅”であった。

 帰路、新幹線に揺られながら、地酒清盛のさかずきを干した。武士として初めて政権を獲得して、果敢に国際交易を展開し、独創的な建築美を残したカリスマの盛者必衰。清盛像が塗り変わる旅となった。

  文・写真 長谷義隆
  
 (2012年1月6日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
音戸の瀬戸へは、JR広島駅から呉線快速で32分、呉駅前でバスに乗り換え約20分。
呉中央桟橋-音戸漁港間を結ぶシャトルシップ「清盛号」を1日6往復(片道500円)、
音戸エリア内を巡るシャトルバス(1日乗車券300円)をいずれも土日曜祝日限定で運行。
宮島へは広島駅から山陽線宮島口駅でフェリーに乗り継ぎ計1時間弱。

◆問い合わせ
呉市観光振興課=電0823(25)3309、宮島観光協会=電0829(44)2011

おすすめ

大和ミュージアム

大和ミュージアム

★大和ミュージアム(呉市海事歴史科学館)
総事業費約65億円をかけ2005年、JR呉駅に近い呉市宝町に開館。
戦艦大和の10分の1模型や設計図面、人間魚雷といわれた特攻兵器「回天」など約12万5000点を収集、展示している。
大人500円。電0823(25)3017。
隣には、実物の潜水艦「あきしお」を陸揚げして艦内を公開する施設「てつのくじら館」がある。

★平清盛音戸の瀬戸ドラマ館
音戸の瀬戸に面するおんど観光文化会館「うずしお」=電0823(50)0321=に14日から1年間オープン。
ドラマ撮影に使用された全長15メートルの和船や衣装を展示。大人300円。
一方、宮島歴史民俗資料館を同じ期間中「平清盛館」として模様替えし、清盛と宮島の関連を示す史料などを展示する。
大人500円。

歴史・文化の宿泊情報

一覧

    現在この情報はありません。

歴史・文化のツアー情報

一覧

    現在この情報はありません。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

旅コラム
国内
海外