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二〇三高地

二〇三高地 中国・瀋陽、大連市 思いはせる激戦の足跡

ルネサンス様式が美しい、ライトアップされた大連ヤマトホテル(水谷撮影)
ルネサンス様式が美しい、ライトアップされた大連ヤマトホテル(水谷撮影)

 中国遼寧省の瀋陽(旧称・奉天)、大連といえば、日本人にはなじみが深い。両都市とも司馬遼太郎氏の小説「坂の上の雲」の舞台であり、旧満州国(中国東北部)の拠点都市だった。その瀋陽空港に、日中記者交流で同僚記者と降りたったのは、真冬の早朝。ロビーから出口付近を見ると、温度差でゆらゆら陽炎(かげろう)が立っていた。その日の最低気温は氷点下20度。この冬一番の冷え込みという。

 雪はめったに降らないそうで、空気は乾燥していた。30分も歩くと、外気と触れた頬が痛くなった。充電したはずのカメラのバッテリーが、極寒で使えなくなり、慌てて胸のポケットで温めた。

 瀋陽の中心部には、旧南満州鉄道が経営していた「奉天ヤマトホテル」が「遼寧賓館」と名を変え営業していた。受付の壁のプレートには有名な宿泊者として、ラストエンペラーの愛新覚羅(あいしんかくら)溥儀(ふぎ)や北朝鮮の最高指導者だった金日成(キムイルソン)などとともに、日本の皇族や関東軍司令官の名が記され、歴史を感じる。建設ラッシュが続く中国で、日本支配の象徴のようなホテルが保存されていることが幸運に思えた。

 瀋陽から鉄道で大連へ。特急列車は1時間ほど遅れ約5時間かかった。ガイドの徐川さんが「日本人は何もない光景が続くと最初はすごいすごいっていうけど、すぐに飽きますよ」という通り、凍(い)てついた荒野がひたすら続く。たまに現れるレンガ造りの集落にも人影はない。地面が凍る冬の間は、畑を耕すどころか、建設工事もできないのだという。

 
二〇三高地から見下ろす旅順港。一望に見渡せるのは珍しい
二〇三高地から見下ろす旅順港。一望に見渡せるのは珍しい

 到着した大連の第一印象は、緑があって、瀋陽に比べて暖かそう。それでも氷点下2度。北京などとは違って坂が多く、路面電車(有軌電車)が走る。戦前、日本人が好んで住んだというのもうなずけた。

 町の中心部には、満鉄経営の「大連ヤマトホテル」が「大連賓館」として残っていた。ロビー、バンケットルームなど、ルネサンス様式の華やかな装飾がレトロ感を誘う。

 日露戦争の激戦地、遼東半島南端の旅順二〇三高地を訪ねた。観光客はほかに見当たらず駐車場はがらんとしていた。バスを降り、巨大な案内板に向かうと「日本は、ここに記念塔を建て日本国民をだました」とある。ガイドによれば「自軍で1万人を超える犠牲者を出しながら、戦勝結果のみを日本国民に喧伝(けんでん)した、ということでは」。その後の侵略戦争の始まりの地として、中国にとっては負の遺産ともいうべきか。

 山道を15分ほど上ったところに、その忠魂碑が立つ。戦死者慰霊のため、「二〇三(にれいさん)」の当て字から「爾の御霊の山」と詠んだのは司令官の乃木希典だ。碑に残る小さな穴は第2次大戦後、乃木の銘板を取り外した跡だという。

二〇三高地の攻略で戦死した旧日本軍兵士を慰霊する「爾霊山」の忠魂碑=いずれも中国・大連市で
二〇三高地の攻略で戦死した旧日本軍兵士を慰霊する「爾霊山」の忠魂碑=いずれも中国・大連市で

 碑の正面に開けた視界のはるか先に、旅順港がすっぽりと収まった。さらにしばらく歩くと展望台。28サンチ榴弾砲(りゅうだんほう)の模型が置いてあった。確かに旅順港は「一望の下に」だった。兵士たちが大きな犠牲を払いながら、ようやく見た光景だ。普段はもやがかかり、これほど鮮明に見えるのは珍しいと聞かされた。100年以上前の激戦に思いをはせると、「坂の上の雲」の場面がリアルに目に浮かんできた。

  文  水谷裕子
  写真 小西数紀

(2012年2月10日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
瀋陽までは成田、名古屋(中部国際)、大阪(関空)などから直行便が出ている。
大連にも成田から直行便がある。瀋陽-大連間の鉄道は特急列車の本数が多い。

◆問い合わせ
中国国家観光局(東京)=電03(3591)8686

おすすめ

サンザシ飴(あめ)

サンザシ飴(あめ)

★遼寧賓館
今の建物は1929年完成。巨大な毛沢東像が立つ遼寧中山広場に面している。
シャンデリアのある階段で地下に下りると、隠れ家のようなバーがある。

★大連賓館
建物は14年完成。大連中山広場に面し、満鉄のホテルチェーンの旗艦として、
最も格式を誇ったという。

★旅順二〇三高地
旅順は大連市中心部から西へ40キロ。二〇三高地は旅順市街地から車で20分ほど。
旅順港は現在も軍港で、2009年から一部を除き外国人に開放された。
日本人向けツアーに参加するのが安心。

★サンザシ飴(あめ)
昼間の街歩きでは冬の風物詩である酸味の強いサンザシ飴を。
街のスタンドで串刺しにして売られている。
日本では中国酒というと紹興酒が一般的だが、瀋陽、大連では50度前後で
無色透明の「白酒(パイチュウ)」が好まれる。
かんきつ系の甘い香りだが、飲むと独特のくせも。
大連では特産のアワビが比較的安い。

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