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向田邦子ゆかりの地 鹿児島市

向田邦子ゆかりの地 鹿児島市 鹿児島県 作家も愛した青い海

 鹿児島市は、作家の向田邦子さん(1929~81年)が愛した街だ。父の転勤で小学5、6年の約2年間をここで過ごし、「故郷の山や河を持たない東京生まれの私にとって、鹿児島はなつかしい『故郷もどき』なのであろう」と書いている。台湾での航空事故で亡くなった後、遺族が寄贈した遺品が、市内の「かごしま近代文学館」に展示されている。

 文学館は、西南戦争で西郷隆盛が自決した城山や薩摩藩の鶴丸城、照国神社など、明治維新を語る上で欠かせない一画にほど近い。西郷さんの銅像を見て、文学館に向かった。

かごしま近代文学館で常設されている「向田邦子の世界」のコーナー

かごしま近代文学館で常設されている「向田邦子の世界」のコーナー

 文学館の2階に、「向田邦子の世界」として遺品などが常設されていた。高い天井に明るい照明。彼女が暮らした東京・南青山のマンションの部屋が再現されていた。

 代表作「だいこんの花」「あ・うん」など脚本の手書き原稿も展示されているほか、愛用のコートなども。自著「酸っぱい家族」を朗読する本人の肉声も聞くことができ、訪れた人を引きつけずにはおかない雰囲気をたたえている。

 向田さんの母せいさんは約8500点の遺品を寄贈するに当たり、「邦子を鹿児島に嫁入りさせよう」と言ったというが、うなずける。

 学芸員の森山鮎美さん(30)は「男女、そして世代を問わず各地から足を運んでくれる。文章に魅せられただけでなく、ライフスタイルにも共感した人たちが今もいかに多いか、ということだと思います」と解説してくれた。

 文学館を出て、照国神社を右手に見ながらしばらく歩いた平之町内には、向田さんの「居住跡地の碑」が立つ。町内会と地元の文芸誌「あかね」のメンバーが中心となって費用を出し、2003年に除幕式をした。

 住んでいた家はないが、この通りを向田さんが駆けていたのかと思うと興味深い。「向田邦子」という存在を風化させまいとする人々の意志を感じさせた。

 
親鸞聖人が上陸したといわれる居多ケ浜の海岸。鉛色の空と海が広がっていた

親鸞聖人が上陸したといわれる居多ケ浜の海岸。鉛色の空と海が広がっていた

 そこからすぐの城山公園の展望台に上ってみた。鹿児島湾に浮かぶ桜島が指呼の間に見えた。向田さんも桜島に魅せられた一人である。生前、定宿のホテルの窓から眺めるたびに「桜島を見ていると、自分の悩みなどいかにちっぽけなことかと思う」と言っていたという。

 その桜島で、海岸沿いに整備された遊歩道から風に吹かれながら、青く広い海を見ていると、何となく心が洗われるような気持ちになってくる。向田さんほどではないかもしれないが、確かに気分が変わっていくのを感じた。

 市の北部、磯地区に足を延ばすと、第二代藩主島津光久の別邸を整備した名勝「仙巌園」がある。薩摩切子の工房も備わっており、その美しさを堪能できた。そういえば、向田さんは水ようかんを薩摩切子の皿で食べるのを好んだというのを思い出した。

 鹿児島は、明治維新の英雄たちが数多く生まれたこともあり、どこか「武骨な」雰囲気を想像していたが、見事に外れてしまった。もっとしなやかで優しさをもった場所であることを実感させられた。

独特の美をたたえる薩摩切子の器=いずれも鹿児島市で

独特の美をたたえる薩摩切子の器=いずれも鹿児島市で

  文・写真 久間木聡

 (2012年2月24日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
鹿児島空港まで羽田、中部国際などから定期便がある。
九州新幹線利用なら博多駅から鹿児島中央駅まで約1時間半。
かごしま近代文学館へは鹿児島中央駅から市電が便利。

◆問い合わせ
鹿児島観光コンベンション協会=電099(286)4700

おすすめ

旧鹿児島紡績所技師館

旧鹿児島紡績所技師館

★かごしま近代文学館
火曜休館(休日の場合は翌日休)。午前9時半~午後6時。
入館料一般300円、小中学生150円。
電099(226)7771

★維新ふるさと館
鹿児島市加治屋町は、西郷隆盛や大久保利通、大山巌ら、近代日本を切り開いた人物が生まれた。
篤姫に関するコーナーなども充実。
午前9時~午後5時、無休、入館料大人300円など。
電099(239)7700

★旧鹿児島紡績所技師館
1867(慶応3)年、鹿児島紡績所の建設と操業指導のため、英国から招いた技師たちの宿舎として建てられた。
「異人館」とも呼ばれたが、97年に閉鎖。
午前8時半~午後5時半、無休、入場料大人200円、小中学生100円。
電099(247)3401

★平川動物公園
日本で4番目に古い動物園。
昨年11月に生まれたホワイトタイガーの赤ちゃん2頭(オス、メス)を一般公開中。
電099(261)2326

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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