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麦積山石窟

麦積山石窟 中国・天水市 岩山に刻まれた信仰心

早朝の街角で音楽に合わせて太極拳をする人たち=中国・宝鶏市で

早朝の街角で音楽に合わせて太極拳をする人たち=中国・宝鶏市で

 中国・西安の空港から車に乗り、シルクロードに沿って西へ向かう。車窓からは30階以上もある超高層ビルや鉄道の高架橋が建設されている光景が見え、中国内陸部も開発の波が及んでいることを実感した。

 片側4車線、平原を真っすぐに貫く高速道路で2時間走ると、宝鶏市に到着した。一泊し、早朝から活気あふれる市街の一角では太極拳に打ち込む人の姿も。再び高速道路に乗り、トンネルが連続する山間部をもう2時間走ると看板に「麦積山(ばくせきざん)」の文字が。敦煌などと並び中国で4本の指に入る石窟は、甘粛省天水市から東南へ45キロの山あいにある。以前は峠道を越え、1日がかりでたどり着いた場所だ。

 訪れたのは3月下旬。まだ冬の空気で、車が山道を上るにつれ雨は雪へと変わった。観光地ということもあり、近づくと農家が経営するレストラン「農家楽」の看板が沿道に連なる。「都会に住む人が日帰りで行くのがはやっているんですよ」と、日本語ガイドの王山太さんが教えてくれた。

 
麦積山で最も大きな仏像。穏やかな表情で下界を見下ろす=中国・天水市で

麦積山で最も大きな仏像。穏やかな表情で下界を見下ろす=中国・天水市で

 麦積山の名の由来は、円すい形の岩山が、まるで収穫した麦わらを積んだように見えるからだという。車を降りて坂道を歩くうち、切り立った断崖に刻まれた巨大な仏像が目に飛び込んできた。周りには数々の石窟が刻まれ、コンクリートでできた参観路が縦横に走る。独特な景観だ。高さ142メートルの断崖に合計200余りの石窟があり、約7000体の仏像と1000平方メートルの壁画が残されている。

 麦積山石窟芸術研究所の女性学芸員の案内で、垂直の岩壁に設けられた急な階段を上がる。鉄製の手すりはあるものの、通路の幅は1メートルほどしかない。足元に目をやると地面が見える。学芸員は慣れたもので、急な階段もポケットに両手を入れながらすたすたと上り下りしていくが、高所恐怖症の人にはきつい場所だ。

 石窟は生活ができそうな広いスペースのものから、仏壇程度のものまでさまざま。それぞれに番号が振られて識別される。5世紀ごろの北魏時代から清代までの仏像が納められている。岩を削った彫像かと想像していたが、木の芯に土などを盛り付けた塑像が多い。

 制作された時代によって仏像の表情も違う。北魏時代のものは、面長でほっそりした体形を持ち、唐の時代のものはふくよかだ。

 実際に石窟で生活した人もいるらしい。壁や天井の壁画が黒くすすけた場所がいくつもある。農民たちが戦火を逃れて身を隠したのだという。「すすけたことでかえって保存状態が良くなった」との説明を聞き、何がどう転ぶかは分からないものだと妙に感心した。

 最も大きな仏像は、高さ15.7メートル。隋の時代に作られた。その上部にあるのが上下に6列、千の仏像が並ぶ長さ36.5メートルの「千仏廊」。2列しか見えないのは、足元に4列が隠れているからという。「仏像の顔がすり減っているのは、ここに参った人たちが体を支えようとつかんだからです」と学芸員。今でこそしっかりとした通路があるが、かつては命懸けでたどり着いたに違いない。

高さ142メートルの岩山に200余りの石窟が刻まれている麦積山=中国・天水市で

高さ142メートルの岩山に200余りの石窟が刻まれている麦積山=中国・天水市で

 最も高い場所にある「散華楼」に上がる。素晴らしい景観が広がることが想像できるが、あいにくの雪で見通しが悪く、周囲の山は水墨画のような陰影にしか見えなかった。

 再び地面にたどり着いて見上げると、あらためてそのスケールの大きさを実感する。職人たちは岩に穴を開け、木材を打ち込んで足場を組み、石窟を掘っていったのだろう。1000数100年も脈々と続いた営みを間近にし、信仰心を肌で感じた。

 文・写真 稲田雅文

(2012年4月13日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
西安までは成田、中部国際空港などから上海経由の直行便が出ている。
西安から麦積山までは、天水まで鉄道で行きバスに乗り換える。

◆問い合わせ
中国国家観光局(東京)=電03(3591)8686

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★ツアー
麦積山石窟のほか、仏舎利など唐の仏教美術が展示されている法門寺博物館、
秦始皇兵馬俑博物館などをめぐる「中国・いにしえの長安美術散歩5日間」。
6月23日に名古屋から出発する。
問い合わせは中日ツアーズ=電052(231)0799。

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