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ハダンゲルフィヨルド

ハダンゲルフィヨルド ノルウェー 眼下に広がる輝く水面

展望台から見下ろす細長い入り江。山の頂には雪が残っていた

展望台から見下ろす細長い入り江。山の頂には雪が残っていた

 山の中腹の展望台から入り江を見下ろす。稜線(りょうせん)に残る雪と青空がコントラストを描き、水面に夏の陽光が惜しみなく注ぐ。海と山に挟まれた村が模型のようだ。

 ノルウェー第2の都市・ベルゲンからハダンゲルフィヨルドまで、電車とバスを乗り継いで3時間。さらにフィヨルドを進む観光船に乗り換えて、ホテル「ウレンスバン」へ。1846年創業で、ノルウェーを代表する作曲家グリーグも愛した老舗だ。

 ホテルの周囲に整備されたハイキングコースに挑戦した。緩やかな上り坂が続くが、トレッキングシューズなど簡単な装備さえ用意すれば初心者でも楽しめる。

 途中、ヒツジが放牧されている牧場や草原、果樹園があり、景色の変化を楽しみながら1時間半ほど歩くと視界が開ける。正面に連なる山陵、眼下には豊かな水をたたえる海。慣れない山歩きで、息が上がり足が早くも痛み始めていたが、絶景は最高のご褒美になった。

 ウレンスバンでボートを借り、救命胴衣を着込んでフィヨルドにこぎだす。辺りを行き交う人も車もほとんどなく、オールの水を切る音が大きく聞こえる。フィヨルドの水を口に含むとほのかにしょっぱい。この季節は、山の雪解け水が流れ込んで塩味が薄くなるのだという。

フィヨルドの村々を行き来する船

フィヨルドの村々を行き来する船

 観光船に乗って対岸の小さな村ウトネに向かう。船着き場前に、1722年創業のウトネホテルが立っている。白い木造建築が美しく、ノルウェーのソニア王妃もお気に入りだという。

 低い梁(はり)や焦げたれんが造りの暖炉に歴史を感じる。「リラックスがコンセプト。テレビやラジオは一切置いてません」とホテルマネジャーのシェッティルさん。日々のニュースを忘れてゆったりした時間を過ごせるのは、忙しい現代人にとってはぜいたくだ。

 静かなホテルの中でも、よく眠れると評判の部屋に案内してもらった。「この部屋には幽霊が出るんです」。シェッティルさんがいたずらっぽく笑う。正体は創業者の奥さんだという。初代おかみが枕元に現れ、当時のままの気配りで心地よい空間をつくっているのだとか。気に入って、長期滞在する客もいるという。

 
野外で民族楽器「ハダンゲルバイオリン」の音色を響かせる奏者=いずれもノルウェー・ハダンゲルフィヨルドで

野外で民族楽器「ハダンゲルバイオリン」の音色を響かせる奏者=いずれもノルウェー・ハダンゲルフィヨルドで

 ウトネホテル近くのハダンゲル民俗博物館では、民族楽器「ハダンゲルバイオリン」や幾何学模様が美しい「ハダンゲル刺しゅう」が展示されている。

 博物館の屋外に移築された100年以上前の農家の前でハダンゲルバイオリンの演奏を聴いた。バイオリンより少し小さく、通常の弦の下に共鳴弦がある。哀愁を帯びた音色を響かせ、日本にも愛好家がいる。

 この伝統楽器をつくる職人はノルウェー全土で十数人と少なくなっている。奏者も減っているようで、ハダンゲル地方ではすそ野を広げるため、子どもたちを対象に教室を開いている。

 フィヨルドの岸辺には、ウトネのような小さな村々が点在している。白やオレンジの家屋が周囲の山並みに彩りを加えるのどかな風景だが、仕事を求めて都会に出る若者が多く、高齢化の波が押し寄せているという。充実した社会保障で福祉大国といわれるノルウェーだが、負担は国民に跳ね返る。

 伝統の衰退と高齢化。観光船の甲板で、ノルウェーの地方が抱える陰の部分を考えて少しうつむいた。しばらくそうしていると、水面のきらめきで自然に視線が上がった。観光船の引き波の白い筋と一緒に、小難しく考え込んだ頭のもやが流れていった。

 文・写真 吉光慶太

(2012年7月13日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
ノルウェーへは、中部国際空港からフィンランド航空でヘルシンキ経由。
成田空港からはスカンジナビア航空でコペンハーゲン経由でも。飛行時間はいずれも12時間前後。

◆ホームページ
スカンジナビア政府観光局のホームページに日本語で詳しい情報が載っている。

おすすめ

★ボーリングフォッセン
ハダンゲルビッダ高原にある滝。落差は182メートルで、毎秒12.4立方メートルが高原から谷底まで落ちていく様子は圧巻。
19世紀初頭から観光地になり、展望台も整備されている。ハダンゲルフィヨルドの自然を紹介するネーチャーセンターからバスで30分ほど。

ホテルウレンスバン

ホテルウレンスバン

★ホテルウレンスバン
ハダンゲルフィヨルドのリゾートホテル。緩やかな山と果樹園に囲まれるように立っている。敷地内にはグリーグが作曲する際に使った小屋やピアノが残されている。カヌーや釣り具の貸し出し、ジムの設備も。日本からの観光客も多いため、ノルウェーでは珍しい米料理が味わえる。

★フルーツ
ハダンゲルフィヨルドには果樹園が点在している。イチゴ、桜桃、ラズベリーなどの木々が並び、のどかな景観をつくり出している。道路には売店もあり、リンゴなどは野外活動の行動食としてもお薦め。

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