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伊万里焼

伊万里焼 佐賀県伊万里市 秘窯の里 風鈴涼やか

江戸時代、伊万里川沿いに立ち並んでいた伊万里焼商家の蔵を描いた陶板=伊万里市伊万里町で
江戸時代、伊万里川沿いに立ち並んでいた伊万里焼商家の蔵を描いた陶板=伊万里市伊万里町で

 江戸時代から明治にかけ、欧州の王宮や貴族をとりこにしたメード・イン・ジャパンがあった。おそらく「物作り日本」が海外で初めて認められた伊万里焼は、日本製磁器の代名詞にもなった。4年後の2016年、国産磁器誕生から400年を迎える九州北西部の山里には、色あせることのない磁器の輝きと涼やかな音色が共鳴していた。

 このところかしましい「節電の夏」で、「脱エアコン」や「減エアコン」が叫ばれるご時世。電気仕掛けとは無縁の自然体で涼感を味わえる風鈴にも注目が集まる。聞き覚えのある鋳物やガラスではない磁器製風鈴の音でクールな気分にと、佐賀県伊万里市を訪ねた。

 伊万里に行けば、透き通るような光沢の白磁に赤、緑、黄色を基調とした上絵が描かれた涼しげな風鈴の音色が聞けると期待して、JR伊万里駅前に立った。伊万里焼人形のモニュメントや色絵婦人立像を拡大した復刻磁器、高さ2メートルほどもある金工技術を加えた欧州調の燭台(しょくだい)仕立てつぼなどが出迎えてくれた。さすが伊万里焼の本場と感心しながら、駅周辺や商店街を歩くが、ちっともあのチリンチリンが聞こえてこない。

 きょろきょろしていると、「お探しの風鈴は、ここにありません」と、ガイドの小寺瑳俊さん(79)はにべもない。代わりに案内されたのは、伊万里の街中を流れる伊万里川。川沿いの遊歩道フェンスには、有田焼など伊万里周辺の磁器産地から集められた焼き物を扱った江戸時代の商家80軒の蔵を描いた陶板が1枚ずつはめ込まれている。「江戸初期から明治にかけ、伊万里港から積み出された磁器は『伊万里焼』と呼ばれ、国内外に旅立ったんです」。伊万里は、港町として栄えた。

 
国産磁器の歴史が始まった泉山磁石場=佐賀県有田町で
国産磁器の歴史が始まった泉山磁石場=佐賀県有田町で

 伊万里湾を背に車で20分ほどの山道を急ぐと、三方を岩山に囲まれた大川内山地区に突き当たった。ひときわとがったとんご岩、目の前に堂々と立ちはだかる屏風(びょうぶ)岩、螺鈿(らでん)に使われるアコヤガイが岩肌に付いていたという青螺山(せいらざん)が神秘的な景観を際立たせる。

 かつて肥前国を治めた鍋島藩が、江戸初期から廃藩置県までの約200年間、朝廷や将軍家に献上するため技術を磨き、至宝といわれるまでに完成度を極めた鍋島焼の御用窯(藩窯(はんよう))が置かれた山すそには、30軒の窯元が肩を寄せ合っていた。

 藩窯は当初、慶長の役で李朝から連れてこられた陶工が1616年、国内で初めて磁器の原料となる磁石を泉山で見つけた磁器発祥の地、同県有田町にあった。が、青磁の原料が大川内山で見つかり、門外不出の技術を守るため75年、険しい地形で外部との接触を拒む秘境に窯を移し、関所を設けた。職人は生涯、幽閉状態に置かれた。

秘窯の里で涼やかな音色を響かせる伊万里焼の風鈴。後方にはとんご岩がそびえる=佐賀県伊万里市大川内山で
秘窯の里で涼やかな音色を響かせる伊万里焼の風鈴。後方にはとんご岩がそびえる=佐賀県伊万里市大川内山で

 ガス窯と入れ替わるまで、煙を吐いたまき窯の名残をとどめる赤れんがの煙突に導かれ、石畳の坂を上っていくと、窯元の店先にのれん状につるされた磁器の風鈴とようやく対面できた。風に吹かれるたび、乾いた感じだが余韻が残る音色があちこちで鳴っている。店主は「澄んだ高い音が特徴で、昨年の倍ぐらい売れてます」とご機嫌。夏場のイベントに2004年から窯元がこぞって風鈴を作り、まつりを開いている。

 関所跡脇の陶工橋を渡ると、木枠に14個の大風鈴(直径21センチ、高さ20センチ)をつり下げた「めおとしの塔」がある。めおとしは江戸時代、陶工が焼き物をたたいて、音で割れていないか確かめた検品方法。塔は、藩窯時代すでに職人技として根付いていた音の文化を風鈴に重ねたモニュメントとして、28年前にお目見えした。

 翌日、再訪した大川内山は、前日の大雨とは打って変わっての晴れ。鍋島青磁が目指す雨上がりの雲間に広がる澄み切った青空のような色「雨過天青(うかてんせい)」が広がる空の下、伝統を受け継いだ音色が秘窯の里に響いていた。

 文・写真 奥田啓二

(2012年8月3日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
伊万里市へは、福岡空港やJR博多駅前から伊万里駅前までの高速バス(約2時間)が便利。車は長崎自動車道・武雄北方ICから約30分。
鉄道は博多駅から唐津駅で筑肥線に乗り換え約2時間15分など。

◆問い合わせ
伊万里市観光協会=電0955(23)3479
伊万里鍋島焼会館=電0955(23)7293

おすすめ

ハンバーグセット

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★風鈴まつり
伊万里市の秘窯の里・大川内山一帯で毎年、6月中旬から8月末まで開催。
窯元30軒の各店舗で今年の新作を展示、販売している。2000~3000円の価格帯が売れ筋。

★あじ
JR伊万里駅から徒歩約10分のステーキハウス「つじ川」では、伊万里産和牛のステーキセット(肉130グラム、サラダ、テールスープ、エビソテー、焼き野菜、ライスかパン、ソフトドリンク)が3000円(税別)とお得。
同じ肉を使ったハンバーグセット(150グラム)は1500円(同)で人気メニュー。22席。
ランチは午前11時半~午後2時半、ディナーは午後5~9時。
不定休のため要連絡=電0955(23)2660

★伊万里市陶器商家資料館「丸駒」
1825年に建てられた白壁土蔵造りの旧犬塚家住宅を修復復元。
館内には当時の家具や伊万里焼など調度品が展示されている。
午前10時~午後5時開館で、月曜休館(祝日の場合は翌日振り替え)。
入館無料。電0955(22)7934

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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