【本文】

  1. トップ
  2. 旅だより
  3. 土佐嶺北地方
土佐嶺北地方

土佐嶺北地方 高知県 良米育つ棚田は壮麗

吉延地区の傾斜地に張り付くように作られたモザイク模様の棚田=高知県本山町で

吉延地区の傾斜地に張り付くように作られたモザイク模様の棚田=高知県本山町で

 四国のど真ん中、高知県嶺北地方に、山村の原風景を映し出す棚田群が広がっている。谷間に霧がたなびく急峻(きゅうしゅん)な斜面に水田が張り付く天空の郷(さと)には、土佐の新興ブランド米がはぐくまれていた。

 吉野川の源流で、四国の水がめ「早明浦(さめうら)ダム」を抱える嶺北は、大豊、本山、土佐の3町と人口500人に満たない大川村の4町村。3町には四国山地の東西を横断する国道439号が走る。嶺北の観光事務局員、和田啓士さん(47)は、演歌「与作」の語呂合わせから「地元ではこの国道を“ヨ(4)サ(3)ク(9)”と呼んでいます。与作は木を切るけど、こっちのヨサクは米を運びます」と笑わせる。

 国道から本山町吉延地区のつづら折りの山道を登る。吉野川の支流、樫(かし)ノ川両岸を、ゴルフコースのグリーンを思わせるモザイク模様の棚田が埋め尽くしていた。標高250~850メートルの谷から頂近くまで続く棚田には霧が発生しやすく、昼と夜の寒暖差も大きいため、米作りには最良の環境。豊かで清らかなわき水と厳しい自然条件がうまい米を育てる。

 
美空ひばりさんが「日本一の歌手」を祈願した大杉=大豊町で

美空ひばりさんが「日本一の歌手」を祈願した大杉=大豊町で

 2010年、静かな山村に“事件”が起きた。静岡県で開かれた米の食味コンテストで、地元農家の田岡清さん(52)の品種「にこまる」が、36道府県から出品された397点の中から西日本では初めて最優秀賞に選ばれた。栽培から3年目、「土佐天空の郷」のブランド米で販売を始めた翌年の快挙だった。

 販売当初、田岡さんらは売り込み先の関西のデパートで「西日本の米なんか置いたことがない」と言われ、悔しい思いをした。四国の無名ブランド米が東北の有名ブランド米を抑え頂点に立つとは「夢にも思わなかった」と振り返る。11年産の約47トンは11月中旬の新米発売から半年で完売した。自由民権運動発祥の地で土佐を象徴する「自由は土佐の山間より」を引用すれば「良米は土佐の山間より」である。

 知名度アップで今夏、全国の米問屋40人が団体で棚田に押し寄せた。うまい米づくりへの期待とともに、「これだけ棚田がまとまって見られる所はほかにない」と感動の声が相次いだ。先祖伝来の山に押し寄せる新しい波に「棚田の景観が財産、とあらためて気づかされた」と田岡さん。

 町内だけでも棚田の景観地点は8カ所。嶺北全体では、いったいどれくらいあるのだろう。山を越えた土佐町では、棚田巡りの写真愛好家らをスピーカーから流れる民謡「土佐のしば刈り歌」が優しく迎える。嶺北の稲刈りは平野部より3カ月遅れ。9月末~11月初めにかけて、棚田は黄金色に染まる。本山町出身の作家、大原富枝さん(1912~00年)は、代表作「婉(えん)という女」の中で「遠くの黄金色した稲穂の列が煙るように波立って見え・・・」と古里の情景を重ねた。

美空ひばりさんの遺影碑には生花が絶えない=大豊町で

美空ひばりさんの遺影碑には生花が絶えない=大豊町で

 JR土讃線の大杉駅(大豊町)近くにある八坂神社境内の日本一の大杉を訪ねた。推定樹齢3000年。南北に分かれた二株が根元でくっついているので「夫婦杉」ともいわれ、巨木には「昭和の歌姫」に上り詰めた歌手にまつわる秘話があった。

 戦後間もないころ、当時9歳の美空ひばりさん(1937~89年)が高知巡業途中に立ち寄った大豊町でバス転落事故に遭い九死に一生を得た時、この大杉にあやかり、「日本一の歌手」を祈願、夢を託したという。参道脇には、ひばりさんの遺影碑と「川の流れのように」の楽譜が刻まれた記念碑が立ち、ファンらが手向ける生花が絶えない。

 土佐が生んだ幕末の風雲児、坂本竜馬も目にした美田が受け継がれる嶺北の山。「日本一は情熱ぜよ」の叫び声がこだましたように聞こえた。

 文・写真 奥田啓二

(2012年9月7日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
高知県嶺北地方へは、JR岡山駅-土讃線大杉駅まで特急で2時間余。
車は山陽自動車道岡山IC(インターチェンジ)-高知自動車道大豊ICまで約1時間40分。
羽田空港から高知空港への定期便で約1時間20分、同空港から大豊ICまで約45分。

◆問い合わせ
嶺北地域観光・交流推進協議会=電0887(82)2450

おすすめ

碁石茶

碁石茶

★大原富枝文学館
大原富枝さんの作品、日記などを展示。
ことし生誕100年を記念した特別展も開催中。
一般・大学生300円、小・中・高生100円。
午前9時~午後5時、月曜休館。
本山町本山。電0887(76)2837

★碁石茶
微生物発酵茶で、甘酸っぱい香り、独特の風味、タンニンが少ないのが特徴。
山茶にかび付けをしてつけ込んだ後、3~4センチ角に裁断し、むしろに広げて天日干しする様子が碁盤に碁石を並べたのに似ていることから碁石茶と呼ばれる。
大豊町碁石茶協同組合=電0887(73)1818

★ブランド米「土佐天空の郷」
ふっくらとしたモチモチの食感で甘みが特徴の「にこまる」と、もっちり甘くしっかりしたご飯の「ヒノヒカリ」がある。本年産新米は10月初めから販売予定。
本山町農業公社=電0887(76)4333

★四季菜館
本山町の国道439号沿いにあるヨーロピアンレストラン。
シェフはスコットランド生まれのマイケル・シンプソンさんで、奥さんが同町出身。
地元産の嶺北ビーフ(土佐あかうし)のステーキがお薦め。
電0887(76)4337

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

旅コラム
国内
海外