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小豆島

小豆島 香川県 映画の地に新しい潮風

木造校舎にボンネットバス-。昭和初期の薫りが漂う「二十四の瞳映画村」

木造校舎にボンネットバス-。昭和初期の薫りが漂う「二十四の瞳映画村」

 瀬戸内海に浮かぶ島々を縫いながら、小豆島(香川県)を目指してゆったりフェリーが進む。甲板に出ると秋をはらんだ潮風が心地よく、日常の慌ただしさが遠のいていく。

 映画監督の木下恵介さん(1912~98年)が、今年12月5日に生誕100年を迎えるのを記念して発売されたDVDで高峰秀子さん主演の「二十四の瞳」を見て小豆島を訪ねたくなった。昨年話題を呼んだ映画「八日目の蝉(せみ)」も島でロケが行われ、今夏は2014年公開予定の子どもが主人公の「瀬戸内海賊物語」(大森研一監督)が撮影された。

 フェリーが着いた土庄(とのしょう)港には、「二十四の瞳」をモチーフにした「平和の群像」がある。小豆島生まれの作家壺井栄さん(1899~1967年)が著した「二十四の瞳」の原作は、女性教師と12人の児童の交流を描きながら戦争への怒りを込めた小説。発表されて今年で60年。映画は1954年に公開され、黒沢明監督の「七人の侍」と、人気と評価を二分した。

 島には木下監督が撮影に使った1902年に開校した木造校舎が今も「岬の分教場」として保存されている。隣接の「二十四の瞳映画村」は、87年に田中裕子さん主演で再映画化のときのオープンセットを中心に常時「二十四の瞳」を上映する映画館をはじめ、壺井栄文学館、懐かしい給食セットや島グルメが楽しめるカフェなどが入る観光スポット。分教場、映画村内の木造校舎は出入り自由。海風に乗って映画の子どもたちの声が聞こえてきそうだ。年配者は懐かしそうに教室を見渡し、若者は物珍しげに木製の小さな椅子に座り机に向かう。

 「岬の分教場保存会」の専務理事で映画村の運営にあたる有本裕幸さん(49)は「作品が風化していく中で映画村をどう存続させていくか、これが難しい」。「二十四の瞳」を知らない人にも楽しんでもらえ、映画ファンなら1日いてもあきないよう、さまざまなアイデアを打ち出し展示品などの充実を図る一方、映画村とオリーブ公園を結ぶ渡し船でアクセスをよくした。

伝統の木桶仕込みにこだわるヤマロク醤油五代目の山本康夫さん

伝統の木桶仕込みにこだわるヤマロク醤油五代目の山本康夫さん

 有本さんが島に映画文化を根付かせようと奮闘しているように、人口の減少、高齢化が進む島を活性化させるため、伝統を守りながら新たな創造に取り組む人たちがいる。財団法人食品産業センターが設けた「本場の本物」に認定されている「醤油(しょうゆ)」造りで頑張っているのがヤマロク醤油の5代目、山本康夫さん(39)。ほうろう製のタンクが多くなる中、昔ながらの木桶(きおけ)仕込みにこだわる。「木桶を作る人が廃業したので、教えを請い自分で作り始めました。息子が2人いるので、1人は桶職人にしようともくろんでいます」と笑うが苦労は多い。

 新たな取り組みをしているのは、オリーブオイルの製造を島で最初に始めた会社「オリーブ園」。青空に白亜のギリシャ風車が映える。「オリーブの林を散歩して、製品を買ってもらうほかにも楽しんでもらえたら」と、同社営業部長の永井順也さん。10月半ばの完成を目指し、海を見下ろす園内に彫刻家のイサム・ノグチさんがデザインしたアート遊具の設置工事を進めている。現代アートの島としても売り出そうとする島ならではの発案だ。

海を望むオリーブの丘に立ち、青い空に映えるギリシャ風車=いずれも香川県・小豆島で

海を望むオリーブの丘に立ち、青い空に映えるギリシャ風車=いずれも香川県・小豆島で

 原作の小説「八日目の蝉」で著者の角田光代さんが「海と空と雲と光と木と花と、きれいなものぜんぶ入った広くて大きな景色」と記す島の自然に触れ、木下監督が「二十四の瞳」で訴えようとした人間の美しさ、理不尽な社会への怒りが今の時代に必要だとの思いを強くした。

 文・写真 田辺洋子

(2012年9月21日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
JR岡山駅から新岡山港へはバスで約40分、小豆島の土庄港まで約70分。ほかに高松、神戸、姫路などから小豆島の7つの港にフェリーや高速船が就航している。

◆問い合わせ
二十四の瞳映画村=電0879(82)2455、
小豆島観光協会=電0879(62)5300

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島宿真里の料理

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★寒霞渓(かんかけい)
火山活動で誕生した奇岩がそびえる渓谷美は絶景。紅葉の名所。
ロープウエーの紅雲亭駅から山頂まで標高差317メートル、5分で結び、深い渓谷と海の向こうに四国の山々が展望できる。遊歩道も整備されている。
寒霞渓ロープウェイ=電0879(82)2171

★四方指(しほうざし)展望台
標高777メートル。瀬戸内の景色を、ぐるり360度満喫できる。

★島宿真里
和風モダンな源泉を持つ客室7部屋の人気の温泉宿。
食事は料理人の主人が「島でしか味わえないものを」と、名物料理の醤油会席をはじめ魚介類も野菜もすべて地元産。電0879(82)0086

★マルキン醤油記念館
醤油やつくだ煮工場が並ぶ一角にあり、醤油の知識が深まる。

★中山千枚田
島で唯一の棚田。「八日目の蝉」の撮影をきっかけに途絶えていた「虫送り」が復活した。

★味
島の新たな名物はソフトクリーム。オリーブ、スモモだけでなく醤油、もろみ、つくだ煮など変わり種もある。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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