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唐人屋敷跡

唐人屋敷跡 長崎市 日中交流の歴史を刻む

福建会館の前庭で中国の方向を見つめて立つ孫文の銅像

福建会館の前庭で中国の方向を見つめて立つ孫文の銅像

 長崎市の路面電車を築町駅で降りて、山手へ5分ほど歩くと、中国革命の父と称される孫文ゆかりの「福建会館」に着いた。前庭に立つ孫文の銅像は西のかなたを見つめていた。孫文は100年以上も前、この地で同じように右手でステッキを突きながら海の向こうの祖国を思っていたのだろうか。

 案内してくれた地元自治会長、八木一郎さん(75)は「孫文は革命のための支援を求め、しばしば長崎を訪れ、この福建会館で地元の有志と会合を重ねました」と説明した。会館は1868(明治元)年、中国・福建省の貿易商が事務所として建てた八●(はびん)会所の一部。その後、火災を経て97年に福建省出身者が改装したのをきっかけに「福建会館」と改名された。

 前庭から会館へ続く石の階段は、表面が削り取られていた。「孫文がここに座ったというだけで、中国、台湾から来た人々が削り取っていったんです」。孫文を慕う人々の気持ちが理解できる。

観音堂のアーチ状石門は、江戸時代の絵図にも描かれている

観音堂のアーチ状石門は、江戸時代の絵図にも描かれている

 江戸時代から中国との貿易、交流が盛んな長崎の街を歩いてみた。会館のある一帯は長崎の観光名所、中華街にほど近く、「唐人屋敷跡」と呼ばれている。一見すると、大通りの奥の入り組んだ住宅街といった風情だ。案内の表示を頼りに中華街から100メートルほど行くと、「唐人屋敷跡・北西隅」の碑を足元に見つけた。

 坂を上ると、屋敷を囲っていた堀跡にぶつかった。道の脇に残る石垣は、道路工事の際に出土した石組みを積み直したものという。

 幕末に荒廃して以降、かつての建物はなくなった。そして、原爆でも被害を受けた。福建会館に加え、中国風の建築物「観音堂」「土神堂」「天后堂」の4つが往時の雰囲気をしのばせる。

 唯一、観音堂に残るアーチ状の石門は、江戸時代の絵図にも描かれている。天后堂には被爆した神像が置かれ、原爆の歴史を伝えている。そっと手を合わせた。

原爆で被災したという天后堂の神像=いずれも長崎市で

原爆で被災したという天后堂の神像=いずれも長崎市で

 長崎といえば、まず思い浮かぶのが出島に商館を置いたオランダだろう。だが、貿易の規模、影響力ともに勝っていたのが中国だった。江戸幕府は中国人も隔離することを決め、1689(元禄2)年に唐人屋敷を置いた。南北200メートル、東西100メートルの敷地に2、3000人が住んでいたといわれる。出島並みの埋め立て地も築き、貿易用の蔵を置いた。長崎中華街は、その新地蔵跡(しんちくらあと)にある。

 孫文に多額の資金を援助した梅屋庄吉も長崎の実業家だった。孫文の像は辛亥革命90周年を記念し、2001年に中国・上海市から贈られた。それと前後し、長崎でも半ば埋もれた存在となっていた唐人屋敷の歴史を見直す動きが始まり、発掘調査で屋敷跡の四隅を確定。4つのお堂も街歩きコースに組み入れた。長崎市は屋敷跡を景観形成重点地区に指定し、当時の面影再現に取り組んでいる。

 長崎と上海を結ぶ航路は今もあり、息の長い交流が続いている。強くなってきた雨の中で、八木さんに最近の日中情勢を聞いてみた。しばらく考えた後、八木さんはつぶやいた。「国同士はいろいろあっても、人同士は昔から深く付き合ってきたんだよ」

 文・写真 三浦耕喜

(注)●は、門がまえに虫

(2012年9月28日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
長崎へは羽田、中部国際空港などから定期便がある。
鉄道ならJR博多駅から特急「かもめ」で約2時間。
市内観光には、路面電車(長崎電気軌道)の1日乗車券(大人500円)が便利。

◆問い合わせ
長崎国際観光コンベンション協会=電095(811)0369。

おすすめ

中華門

中華門

★福建会館
外側が赤れんが、中は木造。
見学時間の目安は午前9時~午後5時、入場無料。

★長崎中華街
唐人屋敷が廃止された後、中国人が移り住んだ日本最古の中華街で、横浜、神戸と並ぶ三大中華街の1つ。
中華門など東西南北の4つの門は、中国から資材を取り寄せ、職人を招き建てられた。
「ホテルJALシティ長崎」には、1702年に中国商人の蔵を建てた際に築かれた護岸の跡が残されている。

★長崎ちゃんぽん
豚骨スープで太麺、たっぷりの野菜と肉を炒めた具を載せる「ちゃんぽん」は、中国・福建省の料理が基とされ長崎名物。
唐人屋敷跡近くでは、「思案橋ラーメン」=電095(823)1344=が有名。
ニンニクのペースト「ばくだん」を入れたものはファンが多い。

★長崎くんち
370年以上の歴史を持つ、長崎を代表する祭り。
今年は10月7~9日開催。竜踊(じゃおどり)などのだし物が見もの。
JR長崎駅観光案内所などで「庭先回りマップ(スケジュール)」を入手すると、だし物の場所、時間がわかる。
詳細はHPで。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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