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出雲・松江市

出雲・松江市 島根県 八雲立つ 悠久の舞台

「神話博しまね」の特設会場で演じられる石見神楽「八岐大蛇」。中央は大蛇を退治する須佐之男=島根県出雲市で

「神話博しまね」の特設会場で演じられる石見神楽「八岐大蛇」。中央は大蛇を退治する須佐之男=島根県出雲市で

 はしごを掛ければ手が届くような低い空に、雲がわき出ていた。谷筋から湯煙のように雲がわく。横雲となって集落の上にたなびく。古代神話が息づく島根県出雲地方。出雲にかかる枕ことばは「八雲立つ」。神秘的な光景にまず目を奪われた。

 ことしは日本最古の歴史書「古事記」が編まれて1300年。出雲は、国の誕生から国家統一に至る神話の舞台である。

 これを記念して出雲大社周辺をメーン会場に開かれているのが「神話博しまね」。郷土芸能を日替わり上演している特設会場で、石見神楽の代表的演目「八岐大蛇(やまたのおろち)」を見た。能装束のような豪華衣装に仮面をつけた荒ぶる神、須佐之男がアップテンポのリズムを刻むはやしに乗って、火炎を吐いて襲いかかる大蛇を次々と切り伏せ、姫を救い出す。

銅鐸、銅剣が一堂に展示されている古代出雲歴史博物館=島根県出雲市で

銅鐸、銅剣が一堂に展示されている古代出雲歴史博物館=島根県出雲市で

 石見神楽の演目のほとんどは古事記、日本書紀を脚色。この日、浜田市から出演した細谷社中は民間社中の草分け。金岡清代表は「神職が神に祈りをささげる儀式舞でしたが、明治以降は農民が担い手になって娯楽色を強めました。アジア各国やアメリカでも公演しています」と話す。主役の衣装1着に約300万円もかかる。「重さ30キロもある装束を着こんで勇壮に舞い踊ります」と意気軒高だ。

 隣にある県立古代出雲歴史博物館に向かった。「世紀の大発見」と話題を集めた古代出雲の至宝を見るためだ。荒神谷遺跡から銅剣358本などの青銅器が大量出土。近くの別の遺跡からも銅鐸(どうたく)が多数見つかった。誰が何のために埋めたのか。矢野健太郎学芸員は「調べれば調べるほど謎が深まる」という。

 山々にわき出る雲を遠望する宍道湖南岸。昔は宿場町としてにぎわった松江市宍道町の中央部に、国指定の重要文化財「八雲本陣」がある。日本屈指の山林王「山の田部(たなべ)家」に対して、「田の木幡(こわた)家」と並び称された大地主の屋敷として公開されている。江戸時代は歴代松江藩主、明治時代は皇太子が休憩したり泊まったりした。

当地屈指の旧家「八雲本陣」は古美術の宝庫=松江市で

当地屈指の旧家「八雲本陣」は古美術の宝庫=松江市で

 戦後の農地解放で広大な田畑を失った14代「ダンさん」木幡久右衛門氏は屋敷を高級宿に衣替え。客間を飾る古美術、床の一輪の花まで主人の風流で染め上げた。茶人大名の松平不昧(ふまい)がうらやましがった「片袖の手水(ちょうず)」など本陣内の見どころは多い。

 実は木幡家から、弥生時代の銅鐸が出ている。木幡道子さんは「花器に見立てて、煎茶(せんちゃ)室につって花を生けてました」という。後に佐賀県の吉野ケ里遺跡から出た銅鐸と同じ鋳型(いがた)でできた「兄弟」と分かり、「出雲と九州を結ぶ銅鐸」として注目された。

 木幡家に眠っていたお宝がもうひとつ近年、日の目を見た。愛知県津島市にルーツを持つ松江藩筆頭家老だった大橋家に伝来した、千利休作と伝わる茶室。「解体されて長い間お蔵入りしていました」と木幡さん。松江開府400年を記念して、松江城近くの松江歴史館に復元された。

 最寄りの名湯、玉造温泉に泊まった。ひとっ風呂浴びる前に温泉街をぶらぶら。湯の神をまつる玉作湯神社は今や全国区の乙女の願掛けスポット。境内の「願い石」に触れれば、霊験あらたかだとか。若い女性が引きも切らない。

 今も往古のお宝が地中に、そして旧家にも眠る出雲。悠久のロマンにすっかり魅せられた。

  文・写真 長谷義隆

(2012年10月5日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
「神話博しまね」主会場の出雲大社周辺(島根県出雲市大社町)は、一畑電鉄出雲大社前駅が最寄り駅。松江市宍道町の八雲本陣へはJR山陰線宍道駅、同市の玉造温泉へはJR玉造温泉駅で下車。

◆問い合わせ
神々の国しまね実行委員会=電0852(22)6757、八雲本陣=電0852(66)0136、松江観光協会玉造温泉支部=電0852(62)3300

おすすめ

鯛(たい)めし

鯛(たい)めし

★神話博しまね
古事記編さん1300年を記念して、出雲大社近くの特設会場を起点に島根県内各地の古事記ゆかりの地に足を運んでもらうための観光イベント。11月11日まで。

★あじ
3段の割子に盛られた「出雲そば」が郷土料理として有名だが、食通の間で評判なのが茶人大名・松平不昧好みの「鯛(たい)めし」。宍道湖を一望する老舗旅館が経営する「庭園茶寮みな美」=電0852(21)5131=の鯛めし会席は味、もてなし、景観とも一流。予算は夜が7000円から、昼は2000円から。

★縁結びスポット巡り
出雲大社を中心として縁結びスポット、パワースポットが数多くある。「願い石」が人気の玉造温泉の玉作湯神社、八重垣神社(いずれも松江市)などを巡る若い女性、カップルが増えている。

★松江の茶室
松平不昧ゆかりの茶室が松江市街に点在している中で、天台宗普門院=電0852(21)1095=にある三斎流茶室「観月庵」は、松江の文化を凝縮した文化スポット。拝観のみ300円、抹茶付き700円。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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