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日系移民史の出発地

日系移民史の出発地 神戸市 希望の街

2001年に建った神戸港移民船乗船記念碑のブロンズ像「希望の船出」=神戸市中央区で

2001年に建った神戸港移民船乗船記念碑のブロンズ像「希望の船出」=神戸市中央区で

 坂道と港の街、神戸をまず北から南に、次に東西に歩いてみた。始発点は新幹線の新神戸駅から徒歩30分ほどの「神戸市立海外移住と文化の交流センター」。元は「国立移民収容所」といい、国内に唯一残る移民関連施設だ。センターから坂を下って港まで、海外雄飛を夢見た人々が歩いた道をたどれば、旅情がひときわ濃くなった。

 なんといかつい名称だろう。国立移民収容所(その後改称)は1928~71年、南米などに移住した20万人近くが最後の日本をかみしめた歴史的建物だ。1100人が宿泊でき、出航までの約1週間を過ごした。神戸から約40万人が海外に渡り、半数はここから旅立った。今は「移住ミュージアム」(博物館)に改装され、移民史を学べる。

 ブラジルとの友好を目指す日伯協会がミュージアムを運営する。細江清司事務局長(70)は「ピーク時(30年代)は年2万人を超える人たちがここから旅立ちました」と話す。ブラジルまで1カ月半に及ぶ船旅にあらかじめ慣れるためか、建物には船内に似た雰囲気があったという。ベッドをぎっしりと並べた部屋が再現されている。

 旅立ちの心情あふれる落書きがある。「別離の言 俺は故郷を想う(略)俺達皆は成功を夢見ている」。あるいは「三重県」「優秀青年成」の文字。この三重の男性の1人はブラジルで成功した、と後日談が伝わる。

2000年から神戸で暮らしているジャイアントパンダの「旦旦(タンタン)」

2000年から神戸で暮らしているジャイアントパンダの「旦旦(タンタン)」

 「ブラジル移民発祥之地」の碑を眺めて坂を下る。移民たちはセンターの目の前の坂(鯉川筋)を下って港まで歩いた。まっすぐ歩けば1時間かからない。潮風さわやかな港には家族3人の像「希望の船出」が新天地を見据えて立っていた。振り返れば旅立つ人が最後に見た日本がある。六甲山の山並みだ。

 波止場町なんて地名は、いかにも神戸らしい。海を越えて行く人だけではなく、越えて来た人の足跡もある。新神戸駅からセンターまでの間に風見鶏の館などが並ぶ異人館街がある。センターから港までの道は中華街「南京町」のすぐ脇だ。

 少々くたびれたが、次は東西に移動する。まずはJR三ノ宮駅から東へ1駅の灘へ。歩いて10分程度の神戸市立王子動物園にパンダを見に行く。東京、和歌山のパンダは有名だが、神戸のパンダも捨てがたい。運動場の土で白い毛が茶色になっているところがいい。飽きずに見詰める人がいる一方、さっさと通り過ぎる人も割合いる。ここはパンダの穴場と独りごちた。

 
阪神大震災の復興シンボルでもある高さ18メートルの鉄人28号=同市長田区若松町で

阪神大震災の復興シンボルでもある高さ18メートルの鉄人28号=同市長田区若松町で

 今度は灘からJRで西へ5駅先の新長田へ。駅前を通りかかった人に「この辺に鉄人28号が・・・」と尋ねようとすると、「てつ・・・」まで言ったところで、すかさず「ああ、そこ曲がったとこに立ってますわ」と予知能力者のような笑顔を返された。

 木造家屋が密集していた長田は震災で猛火に襲われた。高さ18メートルの鉄人は阪神大震災の復興シンボルだ。2メートルもある頭の向こうに日が沈んでいく。

 アーケードに温かい光を放つお好み焼き店を見つけた。長田名物そばめしを注文し、鉄板の上の熱々をコテですくってほおばって、朝から歩き詰めの足を休める。と、知らぬ間に店のおばちゃんが横にいる。「にいちゃん、最後はな・・・」と笑っている。最後は鉄板にコップを置いて、そばめしが向こうに逃げぬようにコテで追うと食べやすいと教わる。「そしたら、この辺でも通に見えるわ」

 震災がなかったら、と今さらながら思う。夜の鉄人を見に戻った。こぶしを握って立っている。街の守り人のようだった。

 文・写真 三田村泰和

(2012年11月16日 夕刊)

メモ

地図

◆交通 
神戸へは新幹線で名古屋から約1時間、東京から約3時間。神戸中心部の観光地を巡るバス「シティー・ループ」(1回250円、1日券650円)が新幹線の新神戸駅前から北野異人館、三宮、元町、ポートタワーなどを結んでいる。

◆問い合わせ 
神戸国際観光コンベンション協会=電078(303)1010。移住ミュージアムの休館日は月曜(月曜が祝日の場合はその翌日)。

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南京町

南京町

★トアウエスト
おしゃれな街・神戸を代表する一角。元町駅の北東にあり、昔ながらの中華そばを出す中国料理の老舗や雑貨店、喫茶店、洋服店などが並ぶ。かわいい古書店「トンカ書店」は元書店員の女性が5年前に開業。「東京から来た本だったり京都からだったり、持ち主さんが『捨てられへん』と大事にした思い入れの塊みたいな本ばっかりです」

★南京町
日本三大中華街の1つで東西270メートル、南北110メートルに100もの店がひしめく。異国情調たっぷりの長安門や六角堂などがあり、呼び込み声がにぎやか。

★新長田
神戸が生んだ漫画家横山光輝さんの2作品「鉄人28号」「三国志」で街おこし中。三国志の登場人物石像、KOBE三国志ガーデンのジオラマなどが出迎える。神戸と映画の古い由緒と貴重なフィルムを伝える「神戸映画資料館」もある。そばめしは工場従業員が弁当の冷やご飯をお好み焼き店の鉄板で温めてもらい、そばを交ぜたのが由来という。牛すじとこんにゃくを甘辛く煮込んでかけた「ぼっかけうどん」も庶民派の名物料理。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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