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桜島

桜島 鹿児島湾 火山と共に「ひたすらに」

「大正大噴火」で火山灰などに埋まった腹五社神社の鳥居=桜島・黒神地区で

「大正大噴火」で火山灰などに埋まった腹五社神社の鳥居=桜島・黒神地区で

 東の大隅半島と西の薩摩半島に挟まれ、地元で「錦江(きんこう)湾」と呼ばれる鹿児島湾に浮かぶ桜島(鹿児島市)。薩摩のシンボルは、休むことなく灰色の噴煙を上げていた。

 「あなたと私は同じ郷里なのですよ。鹿児島が恋しいと思いませんか・・・」。東京・上野公園の西郷隆盛像に望郷の思いを語りかける「放浪記」は、作家、林芙美子(1903~51年)の代表作。芙美子の本籍地は母親の郷里、桜島の古里町である。一家が極貧生活の中で11歳の時、西南戦争で最後の激戦地となった市中心部の城山(標高107メートル)麓の親戚に預けられたこともあった。

 その城山には数多くの歌碑が立つが、「薩摩なる 父桜島 薩摩なる 母は城山 錦江の海」の前で足が止まった。プレートには、鹿児島を離れた有志が郷里への思いを31文字に凝縮した歌-とあった。錦江湾は、薩摩藩主を代々務めた島津家の18代家久が詠んだ和歌に由来するともいわれ、台形の流れるような山裾が藍色の海に伸びる桜島にしばらく見とれた。

 鹿児島港から大型フェリーに乗った。直線距離で4キロ。15分足らずで桜島に。600~1330トンの6隻が、日中は10分間隔で24時間運航している。周囲約55キロの島に暮らすのは5000人足らず。明治以前には2万人を超えたこともあった。島民が畏敬の念を込め「御岳」(1、117メートル)と呼ぶ北岳はじめ、中岳(1、060メートル)、南岳(1、040メートル)でできた複合火山の島。このうち南岳と2006年に活動を再開した南岳東側斜面の8合目にある「昭和火口」から噴煙が上がる。

林芙美子文学碑に据えられた幼少の芙美子像=桜島・古里町で

林芙美子文学碑に据えられた幼少の芙美子像=桜島・古里町で

 400年前から栽培される糖度の高いピンポン球サイズの小ミカンに桜島大根、そして温泉-。自然の恵みを受ける火山の島と「これからも仲良く付き合っていきたい」。桜島大根でギネス記録を持つ大野学さん(69)の言葉に迷いはない。

 桜島を島だと思っていたが、1914(大正3)年1月の「大正大噴火」で、島と大隅半島とを隔てていた島南東部の瀬戸海峡が溶岩などで埋まり陸続きになったと知った。黒神地区には、腹五社(はらごしゃ)神社の高さ3メートルの鳥居が火山灰などで上部1メートルほどを残し埋まったままの状態で保存されている。

 古里町にある林芙美子文学碑の高台に登ると、小学生当時の銅像と成人像に迎えられた。風にたなびく噴煙を見上げていたら、11月に亡くなった舞台「放浪記」で芙美子の生涯を演じ続けた女優、森光子さんの熱演に天国で目を細める芙美子の顔が浮かんだ。

 
南斜面を埋め尽くした壺畑の向こうで、噴煙を上げる桜島=鹿児島県霧島市で

南斜面を埋め尽くした壺畑の向こうで、噴煙を上げる桜島=鹿児島県霧島市で

 錦江湾の懐深く、三方を丘に囲まれた鹿児島県霧島市福山町を訪ねた。江戸後期からアマン(酢)壺(つぼ)と呼ばれる独自のかめ壺で、伝統製法にこだわりながら黒酢造りを続けている。戦前まで24軒あった醸造所は、戦後の米不足と安価な合成酢に押され8軒だけになった。

 南向きの斜面が、おびただしい数の壺で埋め尽くされている。醸造場所が野天のため“壺畑”と呼ばれ、日中は南国特有の強い日差しを受け、夜は錦江湾から流れてくる冷たい海風にさらされながら熟成が進む。城山や、桜島と錦江湾を大名庭園の借景に島津家の別邸として築かれた「仙巌(せんがん)園」(鹿児島市)からの眺めとは違う、庶民の暮らしに溶け込んだ桜島の風景が広がっていた。

 「思無邪」(思い邪(よこしま)無し)。幕末、西欧列強のアジア進出に危機感を抱き、富国強兵や殖産興業政策を進めた島津家28代の斉彬(なりあきら)は、「偽りのない心で、ひたすらに」を意味する論語を好んだ。名君が貫いた信念は、200年の時を経て薩摩の地に受け継がれている。

 文・写真 奥田啓二

 (2012年12月28日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
桜島へは鹿児島港の桜島フェリーターミナルから桜島港まで15分。
運賃は大人150円、子ども(1歳~小学生)80円。
島内観光は桜島港-湯之平展望所を巡る循環バス「サクラジマアイランドビュー」が便利。
1日乗車券は大人500円、子ども250円。

◆問い合わせ
鹿児島市観光交流センター=電099(298)5111、
桜島ビジターセンター=電099(293)2443

おすすめ

「昇平丸」の模型

「昇平丸」の模型

★湯之平展望所
桜島御岳4合目(標高373メートル)にある入山可能な場所で一番高い展望所。
対岸の鹿児島市街地や開聞岳が一望でき、夕日や夜景の絶景スポット。
開館は午前9時~午後5時。

★仙巌園・尚古集成館
仙巌園は島津家19代光久が鹿児島市磯地区に構えた別邸で国の名勝。
尚古集成館は28代斉彬が興した造船、造砲、製鉄など諸産業の核になった石造りの洋風工場。
斉彬の提案で国旗の元になる日の丸を船旗として国内でいち早く掲げたといわれる薩摩藩が初めて自前で建造した洋式軍艦「昇平丸」の模型も展示されている。
年中無休で午前8時半~午後5時半。電099(247)1551

★くろず情報館「壺畑」
江戸後期創業の壺酢製造老舗「坂元醸造」が、黒酢の歴史や製法などを学べる施設として一般に公開。
見学は午前9時~午後5時。電(0120)707380。
併設レストランでは黒酢を使った中華料理や飲み物、スイーツが味わえる。
午前11時~午後5時。年中無休。電0995(54)7700

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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