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奄美大島、加計呂麻島

奄美大島、加計呂麻島 鹿児島県 寅さんとリリーの面影

緑の屋根の「リリーの家」の裏手にあるデイゴ並木=鹿児島県加計呂麻島で<br />

緑の屋根の「リリーの家」の裏手にあるデイゴ並木=鹿児島県加計呂麻島で

 「ハブは暗闇でも目が見える」。赤外線(熱)を感知する「ピット器官」が頭部に備わっていると「原ハブ屋奄美」のショーで教わって急に怖くなった。

 俳優の渥美清さんが亡くなって、今年ではや17年。テレビドラマ版「男はつらいよ」(1968~69年放送)で渥美さん演じる寅(とら)次郎がハブにかまれて死ぬのが鹿児島県奄美大島だ。同島を含む奄美群島が本土復帰して今年で60年。世界最長の映画シリーズとしてギネス認定もされた「男はつらいよ」の最終48作「寅次郎紅の花」(95年公開)のロケが行われたのが奄美大島と隣の加計呂麻島とあって、巳(み)年の幕開きにふさわしいと勇んでやってきた。

 だが、「リリーの家」として使われた住居がある加計呂麻島諸鈍(しょどん)集落のデイゴ並木を歩いていても「木から落ちてきたハブに頭をかまれた人もいる」というショーの声がよみがえる。かま首もたげてこちらを見ていた姿が目に浮かび、心がひるむ。

ハブの生態が学べる「原ハブ屋奄美」のショー=鹿児島県奄美大島で<br />

ハブの生態が学べる「原ハブ屋奄美」のショー=鹿児島県奄美大島で

 「『毒をすぐに吸い出せ』と言ってたが、頭をかまれたらどうやって吸い出せばいいんだ」。デイゴの木を見上げるこちらの困惑を知ってか知らずか、地元の男性が「(デイゴが)虫にやられてしまってねえ」と声を掛けてきた。諸鈍長浜沿いに80数本が並ぶデイゴ並木は5~6月に真っ赤な花を咲かせ、琉球交易で港の目印になった。しかし、数年前から外来種の小さい虫に寄生され、どの木も弱っているという。

 旅先では常に泰然とふるまう寅が、加計呂麻島で旧知のリリー(浅丘ルリ子さん)の家に厄介になっている時は、なぜか不機嫌だったことを思い出す。偶会したおいの満男(吉岡秀隆さん)から、初恋の女性泉(後藤久美子さん)の結婚式をめちゃめちゃにしてしまったことを告げられ「男は引き際が肝心だ」と忠告した寅だったが、「そんなのばかにしか見えない」とリリーに食ってかかられる。「自分じゃかっこいいつもりでも、要するに卑怯(ひきょう)なの。意気地がないの。気が小さいの。体裁ばっかり考えてるエゴイストで口ほどにもない臆病者で・・・とんちきちんのおたんこなす」。リリーのたんかにぶぜんとする寅。

 
数々の自作の舞台になった浜辺を見下ろす島尾敏雄文学碑=加計呂麻島で

数々の自作の舞台になった浜辺を見下ろす島尾敏雄文学碑=加計呂麻島で

 気分直しに寅もここへ来ただろうか。島尾敏雄(17~86年)の文学碑が立つ風光明媚(めいび)な呑(のみ)之浦へ足を運んでみた。静まり返った穏やかな入り江を眺めていると、自分が少年のころ、この作家が周縁を指すために使った「はたて」という言葉に強い感銘を受けたことを思い出した。そして、今眺めている景色に「『浦』とはこういう場所を指すんだ」と再び教わっている気分になる。

 後に妻となり「死の棘(とげ)」に登場するミホさんは大戦末期、第18震洋特攻隊の指揮官としてこの島に赴任した島尾と恋に落ち、彼が入り江から出撃するのを見届けた上で、自らも自決しようと短剣を手にこの浜に座り続けたという。

 26(昭和元)年生まれの寅年だったとしたら、終戦の年、寅は19歳。正業に就かなかったのは、戦争が影響しているのかもしれない。「かっこうなんて悪くていいから、気持ちをちゃんと伝えてほしいんだよ。女は」。リリーのたんかが再び、耳によみがえった。

 文・写真 中山敬三

 (2013年1月4日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
羽田から奄美大島は約150分。
名古屋からは直行便がなく福岡または鹿児島空港経由で。
奄美空港からフェリー乗り場がある古仁屋まではバス(名瀬乗り換え)で約150分。
加計呂麻島瀬相港へはフェリーで約25分。

◆問い合わせ
奄美群島観光物産協会=電0997(58)4888、
瀬戸内町観光協会=電0997(72)4567

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あじ

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★映画ロケ地
 「男はつらいよ 寅次郎紅の花」の撮影は、泉が嫁ごうとする岡山県津山市のほか、奄美大島、加計呂麻島でも行われた。特に加計呂麻島では、諸鈍集落のほか、島を訪ねてきた泉に満男が愛を告白する徳浜の海岸など各所でロケを実施。出演者のせりふを記した記念碑が設置されている。島尾敏雄の小説を小栗康平監督が映画化し、カンヌ国際映画祭で「グランプリ・カンヌ1990」を獲得した「死の棘」の撮影も行われた。

★あじ
白飯の上にほぐした鶏肉や錦糸卵、シイタケなどをのせ、鶏スープをかけた鶏飯(けいはん)。元は島津藩の役人をもてなすための高級料理だったと伝わるが、今では庶民の味として多くの食堂で提供されている。

★ハブのショー
奄美市の「原ハブ屋奄美」でハブの生態を紹介するショーを1日3回開催(高校生以上800円)。縁起物の財布やアクセサリーも販売している。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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