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花巻市

花巻市 岩手県 賢治が目指した理想郷

賢治の産湯をくみ上げた井戸が母方の実家に残っている
賢治の産湯をくみ上げた井戸が母方の実家に残っている

 東日本大震災の復興が進む中、「雨ニモマケズ 風ニモマケズ・・・」で知られる宮沢賢治の作品や思想が注目を集めている。賢治の世界に触れてみたくなり、「イーハトーブ(岩手県)」の「ハームキヤ(花巻市)」を訪ねた。

 旅の起点は、小高い丘に立つ「宮沢賢治記念館」。副館長の牛崎敏哉さんが、大震災と賢治の不思議な縁を強調する。

 「花巻で生まれ育った賢治は、明治三陸地震の年(1896年)に誕生し、昭和三陸地震(1933年)の半年後に逝きました。故郷を襲った大災害は、人生観に大きな影響を与えたようです」

 館内には、賢治の37年の生涯と時代背景、創作活動の軌跡、農村改革への取り組み、法華経への傾倒などを紹介するコーナーが続く。愛用したチェロや顕微鏡、自筆原稿の展示もある。「ワンフロアに宮沢賢治が凝縮されているでしょう」と牛崎さん。

 記念館前の特徴ある建物が、レストランと土産物ショップの「山猫軒」。店名の由来は代表作「注文の多い料理店」から。レストランには「でくのぼう」「山猫すいとん」といった作品にちなんだ料理や、白金豚カツカレーやほろほろ鳥チキンカツなど、地元の食材を使ったメニューが並ぶ。

 賢治が設計した南斜花壇や日時計花壇を眺めながら丘を下ると、賢治研究の論文などを集めた「イーハトーブ館」に着く。さらに進んで、「銀河ステーション」のアーチをくぐるとファンタスティックな作品の世界を体験できる「宮沢賢治童話村」が広がる。

観光ボランティアガイドの案内で、雨ニモマケズの詩碑に見入る観光客

観光ボランティアガイドの案内で、雨ニモマケズの詩碑に見入る観光客

 市街地に点在するゆかりの地は、花巻観光ボランティアガイドの高橋輝夫さん(74)の案内で見て回った。

  賢治の生家は今も縁者が住む。近くには母の実家があり、賢治の産湯をくみ上げた井戸もある。夜になると大壁画が浮かび上がる未来都市銀河地球鉄道、供養塔のある身照寺、賢治がドーバー海峡を連想させると「イギリス海岸」と呼んだ北上川の河畔など見どころは多い。

 中でも一番興味深かったのは、賢治が農業指導の拠点として開設した「羅須地人(らすちじん)協会」の跡地に立つ雨ニモマケズの詩碑だ。賢治は花巻農学校(現花巻農業高)を退職後、この地で独居自炊して理想の実現をめざした。

 碑は賢治没後4年目の36年、賢治を慕う人々が建てた。彫刻家で詩人の高村光太郎(1883~1956年)が揮毫(きごう)した。賢治は光太郎の東京のアトリエを訪ねている。賢治が亡くなった後、光太郎は作品や原稿が散逸しないよう尽力もしている。戦時中、光太郎は賢治の生家に一時疎開した。碑に刻まれた詩の文に誤りが見つかり、光太郎が自らの手で追刻している。2人の関係が見えるようだ。

 
花巻農業高の敷地に立つ宮沢賢治像と、移築された羅須地人協会(奥)=いずれも岩手県花巻市で
花巻農業高の敷地に立つ宮沢賢治像と、移築された羅須地人協会(奥)=いずれも岩手県花巻市で

 かつての同協会の建物は、花巻市郊外の花巻農業高の敷地内に移築され、自らがポーズを取ったという賢治像も立っていた。

 花巻は、温泉郷としても知られる。ひなびた風情が心地よい山あいの台温泉に宿をとった。どこもかしこも「宮沢賢治」。花巻市役所には「賢治まちづくり課」まである。わずかに硫黄臭が漂う湯につかりながら、賢治の世界に思いをはせた。

 文・写真 水野泰志

(2013年1月11日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
東北新幹線で東京駅から新花巻駅まで約3時間。
空路は名古屋(小牧)-いわて花巻間に定期便がある。

◆問い合わせ
花巻観光協会=電0198(29)4522、花巻市役所賢治まちづくり課=電0198(24)2111

おすすめ

10段巻きの巨大ソフトクリーム

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★宮沢賢治記念館
午前8時半~午後5時(入館4時半まで)、年末年始を除き無休。
一般350円、小中学生150円など。
電0198(31)2319

★マルカンデパート大食堂
古き良き時代を感じさせるレトロ調の大食堂。
安くてボリュームのあるメニューが並ぶ。
人気は10段巻きの巨大ソフトクリーム(150円)で、割り箸で食べるのが「花巻流」。
電0198(24)1111

★観光タクシー
運転手がガイドを兼ねる。
「宮沢賢治コース」などの基本コースとは別に、自在に訪問先を組み合わせることも可。
小型車で1時間4800円。
1人500円のレトロジャンボタクシーによるツアーも。
予約は文化タクシー=電0198(23)3181(乗り合いになることも)。

★花巻観光ボランティアガイド
団体・個人を問わず、リクエストに応じて無料で案内する。
要予約、申し込みは花巻観光協会へ。

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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